板野友造

板野友造（いたの ともぞう）は、1874年（明治7年）5月18日に生まれ、1945年（昭和20年）12月12日に没した日本の政治家であり弁護士です。岡山県吉備郡足守町（現在の岡山市北区）の出身でした。

来歴

関西法律学校（現在の関西大学）で学んだ後、明治法律学校（現在の明治大学）でも研鑽を積み、1901年にその課程を修了しました。同年、司法官試補採用試験に合格し、高松区裁判所に司法官試補として着任しましたが、わずか半年でその職を辞しています。その後、1902年（明治35年）からは大阪市にて弁護士として開業し、法曹界で活動を開始しました。

政治活動

弁護士として活動する傍ら、政治への関心を深めました。1913年（大正2年）には大阪市会議員に選出され、市政に携わり、市会副議長も経験しました。地方政治での実績を経て、1920年（大正9年）1月には衆議院議員に繰り上げ当選を果たし、国政の舞台へと進出しました。以来、通算５回の当選を重ね、衆議院議員として活動を続けました。当初は立憲国民党に所属していましたが、同党の解党後は革新倶楽部を経て、最終的に立憲政友会に所属し、その一員として政治活動を展開しました。

1927年（昭和2年）3月には、議会内で発生した混乱、いわゆる議会乱闘事件への関与が疑われ取り調べを受けましたが、自身は単に声を荒らげたに過ぎないと主張し、後に不起訴処分となりました。

国家総動員法審議と「黙れ事件」

板野友造の名前は、特に1938年（昭和13年）3月3日の衆議院における国家総動員法案の審議に関連して記憶されています。この日、第5回国家総動員法法案委員会が開かれ、司法大臣らが出席して審議が行われていました。朝刊に掲載された法案擁護の論説が政府の意向を受けたものかと委員らが追及する中、植原悦二郎を中心に法案への強い異論が噴出し、委員会は紛糾していました。事態を収拾すべく、委員長は他の閣僚の出席を要請し、陸軍大臣、内務大臣らが出席しました。

こうした状況下で板野が質疑に立ちました。板野は、国家総動員の必要性は国民も理解しているとしながらも、政府が提示する案では国民が真に納得し、非常時に備える覚悟を決めることは難しいのではないかと指摘。ラジオや新聞、速記録などあらゆる媒体を通じて、国民が納得できる丁寧な説明を政府に求めました。「これで国民に何の覚悟が出来るか」「どうぞ十分にラジオを通じ、新聞を通じ、速記録を通じて国民に分からせてもらいたい」「国民が私と同じ程度のものであるならば、政府の言うことが分からない。どうぞ国民が、『なるほど必要止むを得ないものだ』と諒解し得る程度の説明を願う。どなたでも説明の上手な人でよろしい。」と、法案の必要性を認めつつも、国民への情報伝達と理解促進の重要性を強調しました。

説明員として答弁に立った佐藤賢了陸軍中佐に対し、他の委員から「討論はいかん」「止めた方が穏やかだ」といった野次が飛んだ際、佐藤中佐が「黙れ！」と声を荒らげる事態が発生しました。これが、いわゆる「黙れ事件」です。佐藤中佐は委員長に促されすぐに発言を撤回しましたが、板野はさらにこの佐藤中佐の発言を議会に対する軽視であると強く問題視し、改めて政府の責任を追及しました。自身は総動員計画の準備の必要性を痛感していると重ねて述べつつ、国民が法案制定の真の趣旨を理解できるよう、繰り返し説明を求めているのであり、決して政府を非難したり攻撃したりすることが目的ではないと強調しました。これに対し司法大臣は、憲法によって国民には非常時への覚悟が既に求められているという板野の主張にも触れつつ、平時において非常時における国民の義務の大綱を示すことには意義があると答弁しました。

同日の審議は時間切れで終了しましたが、翌日以降も審議は続き、総理大臣を含む主要閣僚が出席する中で議論が重ねられました。国家総動員法案は、最終的に委員会で全会一致で可決され、衆議院本会議でも可決、貴族院に送付されました。貴族院でも修正案が提出されるなど議論がありましたが、法案は最終的に可決成立に至りました。

弁護士として培った論理的な思考と、政府に対しても臆せず質疑を行う姿勢は、当時の議会において注目を集めました。

参考文献

衆議院・参議院『議会制度百年史 衆議院議員名鑑』大蔵省印刷局、1990年。
『天皇』 児島襄 カゼット出版 2007年 ISBN 4434101455
* 『新訂 政治家人名事典 明治～昭和』日外アソシエーツ、2003年。

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