林敬三

林敬三：激動の時代を駆け抜けた官僚・自衛官

林敬三（はやし けいぞう）は、1907年1月8日に生まれ、1991年11月12日に没した日本の官僚、陸上自衛官です。彼は、戦後の混乱期に警察予備隊の創設と自衛隊の発足に深く関わり、その初代統合幕僚会議議長を務めるなど、日本の防衛体制の基礎を築いた人物として知られています。

生い立ちと文官時代

石川県出身の林は、陸軍中将の林彌三吉の長男として生まれました。東京帝国大学法学部を卒業後、内務省に入省し、地方行政や社会政策に携わりました。戦時中は企画院や内閣法制局で要職を歴任し、戦後間もない1945年には、当時史上最年少となる38歳で鳥取県知事に就任しました。その後、内務省地方局長を務めた後、内務省解体後は、内事局長官として警察制度の移行を担いました。


1948年からは、宮内府次長、宮内庁次長として昭和天皇の側近となり、皇室事務を支えました。この時期、天皇と直接話せる数少ない人物の一人として、天皇からの信頼も厚かったとされています。

武官時代：警察予備隊から自衛隊へ

朝鮮戦争の勃発を契機に、日本は再軍備の必要に迫られました。軍事経験のなかった林は、吉田茂首相の抜擢により、警察予備隊の指揮官に就任します。GHQとの調整を経て、旧軍関係者の参加が制限される中で、林は文官出身の指揮官として、新組織の立ち上げに尽力しました。


1950年10月、警察予備隊中央本部長に就任すると、部隊の再編や基本精神の確立に取り組みました。旧日本軍の影響を排除し、「国民の軍隊」としての新たな組織を形成することを目指しました。1952年には、保安庁の発足に伴い、保安隊の初代第一幕僚長に就任し、陸上自衛隊の前身となる組織を率いました。


1954年7月、自衛隊が発足すると、初代統合幕僚会議議長に就任し、陸海空三自衛隊の統合運用を指揮しました。文民出身の将官として、自衛隊の組織編成や防衛計画の策定に尽力し、アメリカをはじめとする同盟国との軍事的な関係強化にも努めました。在任中には、旧軍の影響を排除し、自衛隊独自の精神と組織を確立することに力を注ぎました。


林は、統幕議長として、日本の防衛体制の基礎を築き、その後の自衛隊の発展に大きく貢献しました。10年余りという長期にわたり議長を務めたことは、彼の卓越した指導力と強い責任感を示すものと言えるでしょう。また、文民出身の議長は、彼が唯一の例です。

退官後：多方面での活躍

1964年に自衛隊を退官した後も、林は様々な分野で活躍しました。日本住宅公団総裁、日本赤十字社社長、日本善行会会長などを歴任し、社会貢献活動にも積極的に取り組みました。また、政府の諮問委員として、行政改革や靖国神社問題など、重要な政策課題の解決にも尽力しました。


林は、官僚、自衛官、そして社会活動家として、激動の昭和時代を駆け抜けました。彼の生涯は、日本の戦後史における重要な転換点と、その後の社会の発展に大きな影響を与えました。

年譜

1907年（明治40年）1月8日：誕生
1929年（昭和4年）：東京帝国大学法学部卒業、内務省入省
1945年（昭和20年）10月：鳥取県知事（官選）
1947年（昭和22年）2月：内務省地方局長
1948年（昭和23年）8月：宮内府次長
1949年（昭和24年）6月：宮内庁次長
1950年（昭和25年）10月：警察予備隊中央本部長
1952年（昭和27年）8月：保安庁第一幕僚長
1954年（昭和29年）7月：初代統合幕僚会議議長
1964年（昭和39年）8月：自衛隊退官
1965年（昭和40年）8月：日本住宅公団総裁
1978年（昭和53年）4月：日本赤十字社社長
1991年（平成3年）11月12日：死去

受賞

正三位（1991年）
勲一等瑞宝章（1977年）
勲一等旭日大綬章（1987年）

著作

『地方自治講話』
『心のしおり』
『国際的に見た日本の防衛問題』
『地方自治の回顧と展望』

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