林竹治郎

林 竹治郎

林 竹治郎（はやし たけじろう）は、1871年（明治3年）に生まれ、1941年（昭和16年）に没した日本の画家、そして教育者です。北海道における美術教育の礎を築いた人物として知られ、特に名作とされる「朝の祈り」は、第1回文部省美術展覧会（文展）に入選を果たしました。また、後にハンセン病医療に生涯を捧げた医師、林文雄の父でもあります。

経歴

林竹治郎は宮城県に生を受け、仙台師範学校（現在の宮城教育大学）に進学しました。師範学校在学中の1889年（明治22年）にはキリスト教の洗礼を受けています。同年、上京して東京美術学校（現在の東京芸術大学）に入学し、3年後の1892年（明治25年）に特別課程を卒業しました。その後、1898年（明治31年）9月に北海道に渡り、北海道師範学校の教諭となります。2年後に同校を退職し、札幌第一中学校（現在の北海道札幌南高等学校）に移り、ここで28年間にわたり美術を指導しました。彼の薫陶を受けた教え子の中には、中原悌二郎や長谷川昇、今田敬一など、後に美術の世界で活躍する者が多くいます。

札幌市北17条西4丁目に自宅を構えていた林は、札幌一中の生徒を下宿させていました。近隣に下宿していた若き日の三岸好太郎もまた、林の自宅を頻繁に訪れていました。教育活動の傍ら、林は日本基督教会札幌北一条教会の長老として、新島善直や長崎次郎といった人物と共に教会の運営にも貢献しました。

札幌一中を退職した後も教育活動は続けられ、藤高等女学校で14年間教鞭をとったほか、北星女学校や札幌第二中学校（現在の北海道札幌西高等学校）でも教壇に立ちました。

札幌一中の図画教師を務めていた頃、後に代表作となる「朝の祈り」が、最初の公募展である第1回文部省美術展覧会（文展、現在の日展に連なる展覧会）に入選するという快挙を成し遂げました。

息子・文雄との関係

1927年（昭和2年）、林は息子文雄が東京府の東村山にあるハンセン病療養所（当時の呼称は「ライ病棟」）に赴任することに当初反対しました。しかし文雄はその決意を貫き、療養所へ向かいます。林は息子を呼び戻そうとしたり、見合いを勧めたりしましたが、文雄の意思は固く、父の試みは成功しませんでした。

しかし、1936年（昭和11年）に文雄が大西富美子と結婚すると、林の態度に変化が現れます。1939年（昭和14年）、息子が鹿児島県のハンセン病療養所に移った後、林は妻こうと共に札幌から転居し、文雄家族の家に身を寄せました。林はこの家を「楽園」と呼び、1941年（昭和16年）に亡くなるまでの晩年を過ごしました。療養所では、息子と共に患者たちを励まし、自らの絵画個展を開催してその収益を患者のために寄付するなど、支援活動にも尽力しました。

代表作「朝の祈り」

林竹治郎の代表作として知られる「朝の祈り」は、日露戦争が進行していた1906年に完成し、翌1907年開催の第1回文展に入選を果たしました。この作品には、円卓を囲んで母親と四人の子どもたちが祈りを捧げる情景が描かれています。林自身、この絵は自身の家庭の祈りを描いたものだと語っています。しかし、部屋の壁には軍刀や軍服姿の肖像画が描き込まれており、この家族が出征中の、あるいは戦没した軍人の家族であることを示唆しています。

当時の札幌のキリスト教界には、戦争支持論と非戦論が混在していましたが、本作がこれらとどのように関連するかの詳細な論考は見られません。ただ、林自身は日露戦争を題材としながらも、戦争を賛美・鼓舞するような意図はなかったとされています。本作の北海道絵画史における位置づけについては、鈴木正實氏の論考に詳しい記述があります。

興味深いことに、日展史編纂委員会が編纂した『日展史』によれば、文展に出品された際のこの作品の題名は、「有心無心」であったと記録されています。現在、「朝の祈り」は北海道立近代美術館に収蔵されており、林竹治郎の芸術と、当時の社会情勢や家庭の祈りを伝える貴重な作品となっています。

参考文献

高野勝夫『キリスト教逸話例話辞典』神戸キリスト書店、1998年。
伊達浩子『林文雄』日本教会新報社、1982年。

外部リンク

* 林竹治郎 - 東京文化財研究所

（この記述は、提供された情報を基に再構成したものです。）

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