林道郎

林 道郎

美術史家、美術批評家。元上智大学国際教養学部教授。

経歴

1959年7月20日、北海道函館市にて生まれる。東京大学文学部を卒業後、同大学大学院に進み、その後コロンビア大学大学院で西洋美術史を専攻した。1999年にはポール・セザンヌに関する研究論文でコロンビア大学より博士号（Ph.D. in Art History）を取得。帰国後は、武蔵大学人文学部助教授、上智大学比較文化学部助教授、教授を歴任し、後に上智大学国際教養学部教授を務めた。

活動

美術史家としては、近現代西洋美術史を主な専門分野とし、研究および執筆活動を行った。美術批評家としても活動し、複数の著書や共編著、翻訳書を刊行している。また、美術評論家連盟の会長も務めた。

不祥事

2021年9月、林氏が上智大学教授であった当時の元学生が、過去約10年間にわたりセクシュアルハラスメントおよびアカデミックハラスメントを受けたと主張し、林氏に対し損害賠償を求める民事訴訟を東京地方裁判所に提起していることが報じられた。この報道では、この元学生が、前年の2020年には林氏の妻から不貞行為を理由に提訴され、その結果敗訴して約260万円の慰謝料を支払っていたという経緯も併せて伝えられた。

問題が表面化した後、林氏は自身のSNSアカウントを閉鎖した。当時務めていた美術評論家連盟の会長職についても辞任の意向を表明し、同月27日には正式に辞任するとともに連盟を退会した。美術評論家連盟は、この件を受けて2021年10月に遺憾の意を示す声明を発表し、翌年7月にはハラスメント防止のためのガイドラインを策定・公表している。

一方、林氏が所属していた上智大学は、当初この問題を「個人間のこと」としてコメントを控える姿勢を示していた。しかし、報道がなされた同月21日には一転し、公式サイト上で事実関係の確認を進める方針を公表した。そして、大学は調査の結果、2022年3月4日には、林氏を同年2月28日付で懲戒解雇処分としたことを正式に発表した。

元学生が提起した訴訟は進行し、2023年3月27日に東京地裁で一審判決が下された。判決は、林氏と元学生の関係について「適切な関係ではなかった」と認定した。特に、大学在学中の性的関係や、ラブホテルでの論文指導といった行為が認められたことを挙げ、これらを理由とした上智大学による林氏への懲戒解雇処分は相当であると言及した。一方で、この関係が直ちに民法上の不法行為を構成するとは解されないとし、また、元学生の意思に反して性的な関係が長期間にわたり継続したとは認められないと判断した。その上で、裁判所は林氏に対し、元学生が林氏の妻に支払った慰謝料の半額にあたる128万円を林氏が元学生に支払うよう命じた。しかし、その他の損害賠償請求や、元学生側が訴訟の中で主張したグルーミングやガスライティングといった行為の認定については退けられた。

元学生は一審判決を不服として控訴したが、控訴審の過程で、一審の判断内容を踏まえた形での和解が2023年10月に成立し、一連の訴訟は終結した。

著作・翻訳

著書

• - 『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』(ART TRACE 全7冊、2003-2009年)
• - 『死者とともに生きる　ボードリヤール『象徴交換と死』を読み直す』（いま読む！名著：現代書館、2015年）
• - 『静かに狂う眼差し　現代美術覚書』（水声社、2017年）

共編著

• - 『シュルレアリスム美術を語るために』（鈴木雅雄、水声社：水声文庫、2011年）
• - From Postwar to Postmodern: Art in Japan 1945-1989 (New York: Museum of Modern Art, 2012)
• - 『絵画との契約　山田正亮再考』（松浦寿夫・中林和雄・沢山遼共著、水声社：水声文庫、2016年）

翻訳

• - エミール ディ・アントニオ／ミッチ タックマン『現代美術は語る　ニューヨーク・1940‐1970』（青土社、1996年）
• - ジェーン・ベネット『震える物質　物の政治的エコロジー』（水声社、2024年）
• - トーマス・クロウ『芸術の知性』（長谷川宏共訳、水声社、2024年）

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