栄光のキリストと聖人たち、およびオドアルド・ファルネーゼ

作品概要

アンニーバレ・カラッチの「栄光のキリストと聖人たち、およびオドアルド・ファルネーゼ」は、1598年から1600年頃に制作された油彩画です。この作品は、キリストの栄光と、聖人たち、そしてオドアルド・ファルネーゼを描いています。制作後、カマルドリ修道会隠遁所に飾られましたが、後にフィレンツェのパラティーナ美術館に移され、現在もそこで鑑賞することができます。

歴史的背景

この作品は、オドアルド・ファルネーゼ枢機卿のために制作されました。アンニーバレは、この絵画の上部のための準備素描をリール宮殿美術館に所蔵されています。背景には未完成のサン・ピエトロ大聖堂が描かれており、クレメンティーナ礼拝堂のドームがないことから、イングランドのカトリック回帰を予言しているという解釈も存在します。オドアルドの祈りのポーズは、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの胸像に影響を与えたと言われています。

制作年をめぐる議論

作品の制作年は、その解釈によって大きく異なります。ある説では、エリザベス1世の後継者としてオドアルドがイングランド王位を得るための政治的キャンペーンを反映していると主張されています。この説では、オドアルドがランカスター朝の血を引いていること、エドワード懺悔王がオドアルドをキリストに紹介していることが根拠とされています。また、背景に描かれた足萎えの人物は、エドワード懺悔王が足萎えの人を癒したという伝説を暗示している可能性があります。さらに、画面左下の聖人ヘルメネギルドの存在は、ファルネーゼ家とハプスブルク家のつながりを示唆し、オドアルドの王位継承の正当性を主張するものと考えられています。この説によれば、作品は1597年から1598年の間に制作されたとされています。

一方、別の説では、この作品は1600年にオドアルドが「保護者枢機卿」に任命されたことを記念するものとされています。この説では、制作年は1600年、あるいはその直後とされています。

設置場所の謎

絵画が本来どこに設置される予定だったのかも議論の的です。カマルドリ修道会隠遁所に飾られていたことは確かですが、元々この場所のために制作されたのか、後に移されたのかは不明です。王位継承説を支持する研究者は、オドアルドの王位への野望が潰えた後、絵画が隠されたと考えます。一方、枢機卿任命説を支持する研究者は、マグダラのマリアがファルネーゼ家礼拝堂の守護聖人であったことから、カマルドリ修道会のために特別に委嘱されたと主張しています。

カズラとアンテペンディウム

この絵画は、カマルドリ修道会にあったカズラ（祭服）とアンテペンディウム（祭壇装飾）と関連があると考えられています。これらの祭具は、ファルネーゼ家の象徴であるユリとユニコーンが描かれており、アンニーバレが自らデザインし、布地に描いたとされています。この事実から、絵画と祭具が一体の委嘱作品であった可能性が強く示唆されます。

作品の影響

絵画の構図は、ラファエロの素描に基づいたジュリオ・ロマーノの作品に影響を受けています。また、コレッジョの影響も指摘されており、制作年を特定する手がかりとなっています。アンニーバレは、コレッジョの影響から完全に脱却することはなかったものの、自身のスタイルを確立していきました。マグダラのマリアの顔は、古代彫刻ニオベ像に影響を受けているという説も存在します。アンニーバレの描いたニオベ像の素描が残っており、他の絵画にも登場します。

まとめ

「栄光のキリストと聖人たち、およびオドアルド・ファルネーゼ」は、アンニーバレ・カラッチの傑作であるだけでなく、当時の政治的、宗教的背景を反映した貴重な作品です。制作年や設置場所をめぐる議論は、この作品の奥深さを物語っています。

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