栗山利章

栗山 利章（栗山大膳）

栗山利章（くりやま としあきら）は、安土桃山時代末期から江戸時代初期にかけての時期に活躍した福岡藩の武士であり、黒田氏の家臣です。一般には、通称の栗山大膳（だいぜん）として広く知られています。彼は、福岡藩で発生したお家騒動、いわゆる「黒田騒動」において、中心的な役割を担った人物として歴史に名を刻んでいます。

利章は天正19年（1591年）、黒田家の重臣であった栗山利安の子として、豊前国（現在の福岡県東部および大分県北部）にあった平田城で生を受けました。黒田家に仕える中で、彼は藩の要職に就いたと考えられています。

彼の生涯における最大の出来事は、福岡藩の二代藩主であった黒田忠之との間の深刻な対立でした。忠之の振る舞いや藩政に対して懸念を抱いた利章は、主君である忠之に謀反の疑いがあるとして、前代未聞ともいえる江戸幕府への直訴に及んだのです。この前代未聞の訴えは、藩の存続を揺るがす大問題へと発展し、「黒田騒動」あるいは「栗山大膳事件」として知られることになります。

この事態に対する幕府の裁定の結果、利章の訴えは「乱心」によるものと判断されました。そして、利章自身は陸奥国（現在の岩手県）にある盛岡藩（南部家）へお預けとされる処分が下されました。この裁定により、一時は改易（大名家の取り潰し）の危機に瀕した福岡藩の黒田家は、その存続を許されることとなったのです。

盛岡藩へ預けられた後の利章の晩年は、実質的には流罪に近い状況ではありましたが、盛岡藩主である南部家からは手厚い処遇を受けました。150人扶持という、当時としてはかなり恵まれた禄が与えられていたことが伝えられています。盛岡での生活においては、同時期に対馬藩から同様に盛岡藩へ預けられていた禅僧、規伯玄方（きはく げんぽう、方長老とも称される）と深い親交を結びました。彼らは共に、盛岡城下の文化振興にも少なからず寄与したとされています。

承応元年（1652年）、利章は盛岡の地でその生涯を終えました。彼の墓所は、現在の岩手県盛岡市にある曹洞宗の寺院、恩流寺に建立されています。墓所には、親交のあった規伯玄方によって、利章の主家に対する忠節を称える碑が建てられています。

子孫のその後について見てみると、利章の嫡男であった栗山利周（としちか）には、後に黒田家から福岡藩への仕官の誘いがあったと伝えられています。しかし、利周はその招聘を断り、栗山家の嫡流は利周の子孫および家臣団とともにそのまま盛岡藩に定着することを選びました。一方、三男の利政は、母の姓である内山を名乗り、盛岡藩士として200石の知行を得ています。盛岡藩主南部重信が内山利政（栗山雖矢とも称されたようです）に宛てた新田開発に関する書状が、現在、もりおか歴史文化館に所蔵されており、盛岡藩における栗山家の活動の一端をうかがい知ることができます。

また、栗山家に代々伝来した貴重な品として、黒田官兵衛（如水）が使用したとされる「白檀塗合子形兜（びゃくだんぬりごうすなりかぶと）」がありました。大膳が盛岡へ移ることになったため、この兜も共に運ばれたと考えられており、現在はもりおか歴史文化館が所蔵する文化財となっています。

栗山利章とその引き起こした黒田騒動は、後世、様々な作品の題材となりました。嘉永5年（1852年）には、江戸中村座で歌舞伎の演目として上演されたのを皮切りに、『御伽譚博多新織』など、多くの外題で続き物が各座で上演され人気を博しました。

近代文学においては、森鷗外が歴史小説『栗山大膳』を執筆しています。この作品では、利章を忠義に篤い人物として描き、一連の騒動も藩主忠之の暴政を諫めるための行動であったと解釈しています。ただし、鷗外自身は、この作品は筋書きのみで校正を経ていない不十分なものだと述べていたようです。これとは対照的に、滝口康彦の小説『主家滅ぶべし』では、利章の人物像に異なる光を当てています。滝口作品における利章は、生真面目で決断力はあるものの、自身の忠義に固執するあまり融通が利かず、他者の心情を慮ることができない人物として描かれています。結果として孤立し、無意識のうちに自身の面目と矜持を保つために騒動を起こし、主家を危機に陥れた独善的な人物像として描かれています。

映画においても、1956年公開の『黒田騒動』をはじめ、数多くの作品が製作され、栗山大膳の生涯と黒田騒動が描かれています。これらの作品を通して、栗山利章という人物が、単なる歴史上の事件の中心人物としてだけでなく、様々な角度から解釈される複雑な魅力を持つ存在であったことが示されています。

もう一度検索