栗本正

栗本正：多才な音楽家、その生涯

栗本正（くりもと ただし、1920年9月19日 - 1986年10月28日）は、日本の声楽界において、バス・バリトンのオペラ歌手、音楽教育者、合唱指揮者として重要な足跡を残した人物です。名古屋芸術大学の学長も務めるなど、教育者としてもその手腕を発揮しました。

生い立ちと音楽への道

台湾で生まれた栗本は、父の帰国に伴い日本へ。神奈川県立川崎中学校（旧制）を経て、1937年に東京音楽学校へ入学し、声楽を学びました。同期には中山悌一がいます。1941年に同校を卒業、1943年には研究科を修了。宮廷歌手ヘルマン・ヴーハープフェニッヒに師事し、その才能を開花させました。

オペラ歌手としての活躍

1941年、新交響楽団の演奏会でモーツァルトの『フィガロの結婚』に出演し、デビューを果たしました。1943年にはNHK東京放送合唱団に入団し、中心メンバーとして活躍。戦後は長門美保歌劇団、藤原歌劇団にも参加し、1952年には妻の栗本尊子とともに二期会の創立に参画しました。二期会では、イタリアオペラ、ドイツオペラの両分野でバス・バリトンの主要な役を数多く務めました。

特に、ヨハン・シュトラウス2世の『こうもり』、ロンバーグの『学生王子』、レハールの『メリー・ウィドウ』といったオペレッタ作品で人気を博し、『こうもり』のフロッシュ役は、栗本抜きには語れないほどの当たり役となりました。確認されているだけでも71回もの公演に出演しており、その実績は目覚ましいものがあります。

合唱指導者としての貢献

オペラ出演と並行して、合唱指導にも情熱を注ぎました。東京放送合唱団の指揮を務めたほか、二期会合唱団の育成にも尽力。團伊玖磨のオペラ『聴耳頭巾』の合唱指揮や、二期会合唱団定期演奏会の指揮者を務めました。また、各種合唱コンクールの審査員としても活躍しました。

アマチュア団体への理解も深く、東京教育大学とお茶の水女子大学合同の東京コンコルディア合唱団や、郡山市民合唱団など、複数の合唱団で指揮者を務めました。1970年からは自身の名を冠したT&Kシンガーズでジャズ・ポピュラー音楽にも取り組みました。中でも、日本大学合唱団とは30年以上にわたり常任指揮者を務め、数々のコンクールでの上位入賞や、清水脩の合唱組曲『山に祈る』の初演、黛敏郎の『涅槃交響曲』のNHK交響楽団初演など、特筆すべき成果を上げています。

教育者としての晩年

晩年は、名古屋芸術大学で教授、学部長、そして学長を歴任し、後進の育成に力を注ぎました。また、東京放送合唱団の代表や、二期会の常任理事、株式会社二期会会館の代表取締役も務めました。1986年10月28日、66歳でその生涯を閉じました。

追悼演奏会

栗本没後の1988年6月17日には、二期会、栗の木会、日本大学合唱団、日本大学合唱団OB会の共催により、都市センターホールにて「栗本正先生 追悼演奏会」が開催され、その功績を偲びました。

麻布中学での音楽教師時代

東京音楽学校卒業後、1941年から1943年9月まで麻布中学（旧制）で音楽教師をしていたことも知られています。教え子には、小沢昭一、加藤武、内藤法美、仲谷昇、なだいなだ、フランキー堺、針木康雄、神津善行など、後の各界で活躍する著名人が名を連ねます。なだいなだや加藤武のエッセイにも当時の栗本の様子が描かれており、追悼演奏会のパンフレットには神津善行からの寄稿も掲載されています。

主なディスコグラフィー

御存知か : 伊吹とおる[作詞]、渡久地政信 [作曲]、渡久地政信[編曲]、栗本正、岩瀬寛、ビクター児童合唱団、ビクター・オーケストラ（ビクター、商品番号:V-41895、1958-11）
清水脩『山に祈る』：二期会合唱団、栗本正他 (2006/3/31 日本伝統文化振興財団)
* 二期会50周年記念CD オムニバス (2002/4/10 ビクターエンタテインメント)


栗本正は、オペラ歌手、合唱指揮者、教育者として、日本の音楽界に多大な貢献をしました。その多才な才能と情熱は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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