栗栖弘臣

栗栖弘臣（くりす ひろおみ、1920年2月27日 - 2004年7月19日）は、日本の官僚、軍人、そして自衛官という、異色の経歴を持つ人物です。

経歴

栗栖は、呉第一中学校、第一高等学校を経て、1943年に東京帝国大学法学部を卒業しました。高等文官試験に首席で合格し、内務省に入省しましたが、海軍法務科士官を志願し、帝国海軍に入隊。南方戦線へ従軍し、終戦時は海軍法務大尉でした。終戦後も現地で戦犯の弁護人を務めたため、復員は1948年まで遅れました。

復員後は弁護士となりましたが、1950年に総理府事務官に。翌年には警察予備隊（後の陸上自衛隊）に入隊し、警察士長（陸軍少佐相当）に任官しました。その後、第13師団長、東部方面総監を経て、1976年に第13代陸上幕僚長、1977年には第10代統合幕僚会議議長に就任しました。

有事法制を巡る発言

栗栖の最も知られる功績は、1978年に「週刊ポスト」誌上で行った「超法規発言」でしょう。彼は、現行の自衛隊法には穴があり、奇襲攻撃を受けた際に、首相の防衛出動命令を待っていては対応が遅れると指摘しました。そして、第一線部隊の指揮官が超法規的な行動を取る可能性も示唆し、有事法制の早期整備を強く訴えました。この発言は、文民統制の観点から問題視され、結果として防衛庁長官によって事実上解任されることになりました。しかし、この問題提起は、福田赳夫首相（当時）に有事立法・有事法制の研究促進を指示させ、日本の国防論議のタブーを破るきっかけとなりました。

退官後

1980年には、民社党公認で参議院議員選挙に出馬しましたが、落選しました。その後は、静岡新聞の客員論説委員や金沢工業大学附属国際問題研究所所長、国士舘大学客員教授などを務め、執筆活動を通じて安全保障問題に関する発言を続けました。

有事法制の成立

栗栖の「超法規発言」から25年後の2003年、武力攻撃事態対処関連三法が成立し、有事法制の基本法である「武力攻撃事態対処法」が施行されました。これは、栗栖の長年の主張が、形になったものといえるでしょう。

主な主張

栗栖は、事務次官は行政事務に専念すべきであり、部隊運用は統合幕僚会議議長（現・統合幕僚長）が担当すべきという考えを持っていました。また、自衛隊の任務は国民の生命・財産を守る警察とは異なり、国の独立と平和を守ることであると主張しました。

主な著書

『私の防衛論』
『自衛隊改造論』
『いびつな日本人』
『仮想敵国ソ連』
『核戦争の論理』
『米ソ激突の恐怖』
『考える時間はある』
『安全保障概論』
『日本国防軍を創設せよ』
『マジノ線物語』

栗栖弘臣は、その生涯を通して日本の安全保障問題に取り組み、その発言は、現代の日本の防衛政策にも大きな影響を与えました。

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