桃太郎の海鷲

『桃太郎の海鷲』

『桃太郎の海鷲』（ももたろうのうみわし）は、1942年に藝術映画社で製作された、日本初の長編アニメ映画として知られています。戦時中の1943年3月25日に公開され、当時の子供たち、特に少国民の戦意高揚を目的として制作されました。

概要

この作品は、日本海軍による真珠湾攻撃をモチーフにしており、桃太郎を隊長とする機動部隊が鬼ヶ島へ「鬼退治（空襲）」を行うという内容です。海軍省の製作協力のもと、瀬尾光世をはじめとするスタッフは霞ヶ浦海軍航空隊での調査を許可され、その結果、漫画でありながらも非常に精緻な描写が特徴となっています。また、當時最先端の四段マルチプレーン撮影台を使用し、雲の中を軍用機が飛ぶシーンなど、立体的な構図を実現しました。

ストーリーと背景

物語は、桃太郎が率いる機動部隊が、鬼ヶ島へ空襲を仕掛けるという展開で進みます。この内容は、当時の日本の国策に沿ったものであり、子供たちに戦争への意識を高めさせる目的がありました。しかし、その一方で、作品の随所には平和への願いも暗示されており、単なる戦意高揚映画とは異なる側面も持っています。興行収入は当時としては異例の64万円を記録し、1943年の封切映画館入場者数ランキングで68本中9位とヒットしました。また、文部省推薦映画にも選ばれるなど、アニメーションの社会的地位を向上させる上で重要な役割を果たしました。

制作の裏側

制作に先立ち、瀬尾光世は海軍将校から、制作の参考としてディズニー映画を鑑賞する機会を得ました。その際、キャラクターの生き生きとした動きやカラー技術、そして圧倒的な制作技術の高さに衝撃を受け、「これは勝てない」と感じたと言われています。スタッフの一人であった持永只仁も、瀬尾から『ファンタジア』などを試写室で見たという話を聞いたと記録しています。上映時間は37分であり、当時としては異例の長さでした（それまでの国産アニメは10分程度が一般的）。

スタッフ

企画：海軍省
後援：海軍省報道部
脚本：栗原有茂
演出：瀬尾光世
撮影：瀬尾光世、持永只仁
技術・構成：持永只仁、田辺利彦、橋本珠子、塚本静世
音楽：伊藤昇
製作：藝術映画社、大村英之助
配給：映画配給社

影響と姉妹編

『桃太郎の海鷲』は、戦時中の日本の国策アニメとして制作された一方で、アニメーション技術の向上に大きく貢献した作品でもあります。この作品の成功を受けて、姉妹編として『桃太郎 海の神兵』（1945年）が制作されました。

外部リンク

桃太郎の海鷲 - allcinema
桃太郎の海鷲 - IMDb（英語）
桃太郎の海鷲（前半） - ニコニコ動画
* 桃太郎の海鷲（後半） - ニコニコ動画

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