桜の樹の下で

映画『桜の樹の下で』の詳細解説

概要

『桜の樹の下で』は、作家・渡辺淳一が1987年に発表した小説を原作とした映画です。1989年5月13日に東映系で公開されました。監督は鷹森立一が務め、R指定作品として、中学生以下の鑑賞は禁止されています。

この映画は、京都の料亭を舞台に、女将である母親と、その娘、そして一人の男性が織りなす複雑な愛憎劇を描いています。美しい桜の風景を背景に、それぞれの登場人物の心の機微が繊細に描かれているのが特徴です。また、大胆な露出やラブシーンも話題となり、当時の観客に大きな衝撃を与えました。

あらすじ

物語は、京都で料亭を営む辰村菊乃が、常連客である遊佐恭平に娘の涼子を紹介することから始まります。菊乃と恭平は恋人関係にありましたが、恭平は涼子にも惹かれ、二人は愛人関係になります。母と娘、二人の女性の間で揺れ動く恭平、それぞれの立場で葛藤する菊乃と涼子。三人の関係は、次第に複雑に絡み合い、それぞれの人生を大きく変えていきます。

物語は、母と娘の間の嫉妬や葛藤、そして男に対する愛情と執着を、生々しく描き出しています。特に、涼子の恭平に対する挑発的な態度や、菊乃の内に秘めた嫉妬心が、物語を一層深くしています。また、美しい桜の風景が、登場人物たちの心の変化を象徴的に表現しています。

キャスト

辰村菊乃: 岩下志麻 - 料亭の女将で、恭平の恋人。娘の涼子には厳しく接する一方、一人の女性としての愛に生きようとする。
辰村涼子: 七瀬なつみ - 菊乃の娘で、恭平の愛人。母を疎ましく思う一方、恭平との関係に溺れていく。
遊佐恭平: 津川雅彦 - 出版社社長で、菊乃と涼子の間で揺れ動く。
辰村: 寺田農 - 菊乃の夫で、涼子の父。
令子: 山口果林 - 恭平の妻。
作家: 野坂昭如（特別出演）- 菊乃の店の常連客。
竹中育子: 十朱幸代（友情出演）- 菊乃の友人。
浅倉: 二谷英明（特別出演）- 恭平の友人。
由紀: 志喜屋文 - 恭平の娘。

スタッフ

監督: 鷹森立一
原作: 渡辺淳一
脚本: 那須真知子
音楽: 小六禮次郎
企画: 三堀篤
プロデューサー: 瀬戸恒雄
撮影: 林淳一郎
照明: 山口利雄
美術: 今保太郎
編集: 西東清明
録音: 柿沼紀彦
* 助監督: 長谷川計二

映画の特徴

本作は、タイトルにもあるように「桜」に強いこだわりを持ち、各地で撮影が行われました。桜が咲き始めてから散るまでの短い期間に撮影を終える必要があったため、撮影スケジュールは非常に厳しかったといいます。また、単に満開の桜を撮影するだけでなく、シーンごとに適した桜を選ぶ必要があり、スタッフの苦労が伺えます。

岩下志麻が着用している着物は、彼女が個人的に懇意にしている呉服店から借りたものを使用しています。また、岩下は役柄について、「頭では娘に恭平を譲るべきと分かっているのに、一人の女性であることを捨てられない葛藤」が難しかったと語っています。さらに、渡辺淳一から「菊乃の演技が素晴らしかった」と褒められた際、大きな喜びを感じたとのことです。

七瀬なつみは、当時新人女優でしたが、大胆な露出を伴う役柄を見事に演じきりました。映画評論家の樋口尚文は、七瀬の緊張感が、結果的に中年男の毒牙にかかるウブな涼子の心情を表現したと評しています。また、露出シーンについても、岩下の着物の裾から足が露わになる程度にとどめ、あえて見せない演出で観客の想像力を掻き立てるように工夫したと撮影担当の林淳一郎は語っています。

終盤の墓参りのシーンで桜吹雪が舞い散る場面は、スタッフ総出で紙で作った桜の花びらを使用しました。その作業は大変なものでしたが、監督のOKが出たときには、多くのスタッフが感動で涙を流したといいます。

作品の評価

『桜の樹の下で』は、母と娘、そして一人の男という複雑な関係性を描いた作品として、観客に強い印象を与えました。その過激な描写や、美しい映像美は、多くの人々を魅了し、映画史に残る名作の一つとして評価されています。

原作の持つ文学的な深みと、映画ならではの映像表現が融合した本作は、現代においても多くの人々を惹きつけてやまない作品です。ぜひ、この機会にご覧になってはいかがでしょうか。

もう一度検索