梁冀

後漢を揺るがした外戚、梁冀の生涯

梁冀（りょう き、生没年不詳 - 159年没）は、後漢の歴史において特筆すべき存在感を示した外戚であり、政治家です。その生涯は、権力掌握から破滅へと至るまでの、激しい権力闘争と、贅沢を極めた生活、そして周囲への圧政で彩られています。

梁冀は、後漢草創期の功臣梁統の玄孫にあたります。父は梁商、妹は順帝の皇后梁妠（りょうたい）と桓帝の皇后梁女瑩（りょうじょえい）という、まさに皇室と深い繋がりを持った家系に生まれた彼は、生まれつき、鋭い眼光と、吃音という特徴的な容貌を持っていました。学問には関心が薄かったものの、文書作成や計算能力には長けていたと伝えられています。しかしながら、その性格は傲慢で、周囲を威圧するような振る舞いだったようです。

若き日から、梁冀は皇族の外戚としての立場を巧みに利用し、酒宴や遊びをこよなく愛しました。挽満（ばんまん）、弾棋（だんき）、格五（かくご）、六博（ろくはく）、蹴鞠（けまり）、意銭（いせん）といった当時の遊戯に熟達していた他、鷹狩り、闘犬、競馬、闘鶏など、多岐にわたる娯楽に精通していたという記録が残されています。

132年、妹の梁妠が皇后になると、梁冀は襄邑侯（じょうゆうこう）に封ぜられます。しかし、彼の父である梁商は、左雄（さゆう）らの反対を受け、この爵位を固辞しました。梁冀はその後、黄門侍郎（こうもんじろう）に任ぜられ、侍中（じちゅう）、虎賁中郎将（こほんちゅうろうしょう）、越騎校尉（えっきこうい）、歩兵校尉（ほへいこうい）、執金吾（しゅうごんご）と要職を歴任し、最終的に河南尹（かなんいん）にまで上り詰めました。

141年、父梁商が亡くなると、梁冀は父の後を継いで大将軍の地位を継承します。順帝の崩御後、2歳の沖帝（ちゅうてい）が即位すると、梁妠は太后として摂政となります。しかし、沖帝は翌年に夭折してしまいます。

この事態を受け、大尉の李固（りこ）は、外戚の専横を危惧し、年長の皇帝を擁立すべきだと主張しました。しかし、梁冀らは、8歳の劉纘（りゅうぎょう）を質帝（しつてい）として即位させました。

こうして、政治の実権を完全に掌握した梁冀は、横暴な振る舞いを繰り返します。質帝は梁冀の専横を鋭く見抜き、「これは跋扈将軍（ばっこしょうぐん）なり」と批判しました。梁冀は、聡明で制御しにくい質帝を恐れて、毒殺したと伝えられています。

その後、次の皇帝を選ぶ際に、李固は清河王劉蒜（りゅうさん）を推挙しましたが、梁冀は、劉志（りゅうし）を桓帝（かんてい）として即位させました。そして、李固を解任し、後に殺害するという暴挙に出ます。世間の失望は大きく、梁冀への批判が高まりました。

桓帝の時代には、梁太后の妹である梁女瑩が皇后となり、梁冀は「剣履上殿（けんりじょうでん）」「入朝不趨（にゅうちょうふす）」「謁賛不名（えつさんふめい）」という、前漢の功臣蕭何（しょうか）に匹敵するほどの破格の待遇を受けるようになりました。しかし、梁冀の横暴はさらにエスカレートし、妻の孫寿（そんじゅ）一族までもが権勢を振るうようになります。梁冀と孫寿は、互いに豪華な邸宅を競い合うなど、贅沢の限りを尽くしていました。

150年、梁太后は桓帝に政治の返上を望み、崩御します。しかし、梁冀の権勢は衰えず、政治を掌握し続けました。しかし、159年、皇后梁女瑩も亡くなると、宮中における梁氏の勢力は弱まりました。この機を捉え、桓帝は宦官の単超（たんちょう）らと共謀し、梁冀派の宦官張惲（ちょううん）を逮捕、兵を動員して梁冀の邸宅を包囲しました。

絶望した梁冀は、妻子と共に自害しました。没収された梁冀の財産は、国家の歳入の半分にも及び、梁冀に連座して死刑になった高官は数十人にものぼり、免職になった者は300人を超えました。一時、朝廷は人材不足に陥るほどの打撃を受けました。梁冀の生涯は、後漢の歴史に大きな影を落とす、権力の暴走と、その悲劇的な結末を示す、象徴的な物語として語り継がれています。

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