左雄

左雄（さ ゆう）

左雄（生年不詳 - 138年）は、後漢時代の政治家であり、字（あざな）は伯豪（はくごう）。南陽郡涅陽県（現在の河南省鄧州市一帯）の出身です。

経歴

安帝の時代に孝廉（科挙の前身となる官吏登用制度）に推挙され、冀州刺史（きしゅうしし）に任じられました。当時、冀州では豪族たちが権勢をふるい、刺史への請託が横行していましたが、左雄は彼らと一切交際せず、不正を働く太守を容赦なく訴えました。

順帝の永建年間（126年 - 132年）初めには、中央に召されて議郎（ぎろう）に任じられます。当時の朝廷は、順帝が即位したばかりで、大臣たちが職務を怠慢しており、政治に不備が多い状況でした。左雄は、たびたび率直な意見を述べ、その誠実な姿勢は、尚書僕射（しょうしょぼくや）の虞詡（ぐく）に評価され、尚書（しょうしょ）に抜擢されます。その後、尚書令（しょうしょれい）に昇進し、国政を主導する立場となりました。

左雄の功績として特筆されるのは、人材登用制度の改革です。太学（官僚養成機関）の修繕を上奏し、陽嘉元年（132年）に完成すると、入学定員を増やしました。同年には、孝廉の被推挙者に40歳以上の年齢制限を設け、着任前に試験を課すことで、官吏の質の維持を図りました。この制度は、胡広（ここう）や張衡（ちょうこう）らの反対を受けましたが、順帝は施行を命じ、翌年には胡広ら十数人が、不適格者を推挙したとして罷免される事態となりました。試験を経て郎中（ろうちゅう）に任命されたのは、陳蕃（ちんぱん）・李膺（りよう）・陳球（ちんきゅう）らわずか30数名に過ぎず、太守たちは恐れをなし、安易な推挙をしなくなりました。この改革によって、順帝の治世における人材登用は公平なものとなり、多くの有能な人材が登用されるようになりました。

孝廉の改革を行う一方で、左雄は古典に精通しており、上奏や尚書の運営においても古典を重視しました。また、九卿（きゅうけい）に対する鞭打ち刑を廃止し、順帝の乳母である宋娥（そうが）への山陽君（さんようくん）の爵位授与に、災異を理由に重ねて反対しました。宋娥は後に誣告（ぶこく）の罪で爵位を剥奪されています。

その後、司隷校尉（しれいこうい）に転任しました。左雄はかつて周挙（しゅうきょ）を尚書に推薦しましたが、司隷校尉になってから、かつての同僚であった馮直（ふうちょく）を将帥として推挙しました。しかし、馮直が収賄の罪を犯したため、周挙は連座として左雄を弾劾しました。左雄は、法を遵守し、恩人にも私情を挟まない人物を推挙できたことを喜び、「これぞ韓厥（かんけつ）の挙なり」と述べました。この態度に、人々は感銘を受けたと伝えられています。この事件により、左雄は一時的に罷免されました。

その後、復職して尚書に返り咲きましたが、永和3年（138年）に亡くなりました。『後漢書』は、左雄を順帝の朝廷に集った賢才の一人として高く評価し、特に孝廉の制度改革を称賛しています。しかし、順帝は多くの人材を集めながらも、宦官や寵姫を重用し、旧弊を打破することができず、左雄の意見が十分に用いられることはありませんでした。

左雄の生涯は、志を持ちながらも、時代の流れに翻弄された悲劇の政治家であったと言えるでしょう。

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