梅花亭

梅花亭の歴史と系譜

梅花亭は、江戸時代に創業した老舗の和菓子店です。そのルーツは文化年間に創業した「梅花亭森田」に遡ります。現在では、東京の新川、柳橋、神楽坂にそれぞれ「梅花亭」の名を冠する店舗が存在しますが、それぞれが独立した企業です。

梅花亭森田の創業

梅花亭の創業者である森田家は、元々札差として徳川家康に従い美濃国から江戸に移住しました。その後、8代目当主の森田清兵衛が和菓子職人に転身し、嘉永3年（1850年）に大伝馬町に店を構えたのが始まりです。

亜墨利加饅頭の誕生

蘭学者の宇田川興斎から西洋の焼き菓子について話を聞いた清兵衛は、当時としては斬新な「亜墨利加饅頭（アメリカまんじゅう）」を考案しました。白餡を薄皮で包み、パン窯で焼き上げたこの饅頭は、表面にクルミの実を乗せ、卵黄を塗って仕上げるのが特徴です。黒船来航直後に発売されたこともあり、話題を呼びました。

銅鑼焼きの誕生と変遷

明治時代初期には、2代目店主の8代目森田清兵衛が「銅鑼焼き」を創案しました。これは、餡に天ぷらの衣をつけ、銅鑼の形に焼き上げるというもので、現在のどら焼きとは異なるものでした。現代のどら焼きの原型は、上野の「うさぎ屋」の編笠焼だと言われています。梅花亭の銅鑼焼きは、当初仏事用の菓子として考案されたため、卵を一切使用していません。

三笠山の誕生

銅鑼焼きの姉妹商品として、明治中期には「三笠山」が誕生しました。九代目市川團十郞が名付け親で、奈良の三笠山の山焼きを連想させる姿から名付けられました。特徴は、薄くて弾力のある皮と、甘さ控えめのうぐいす餡です。この餡は、当時の小倉餡一辺倒の時代に、店主と職長が長年の研究の末に作り上げたもので、エンドウ豆の風味と若草色が特徴です。

梅花亭森田の終焉

戦後、梅花亭森田は、当主の高齢化と経営難により廃業しました。しかし、その名は多くの小説や随筆に登場し、その歴史は語り継がれています。

梅花亭中村の歴史

新川にある「梅花亭中村」は、梅花亭森田の職長であった中村市太郎が、明治31年頃に神田豊島町で開店し、その後、霊岸島に移転しました。市太郎は、赤穂義士の堀部安兵衛が住んでいた場所が「出世長屋」と呼ばれていたことから、その近くに店を構えました。

技術革新と新たな饅頭

市太郎の後を継いだ2代目は、菓子作りの名人であり、技術研究に熱心な3代目は、途絶えていた亜墨利加饅頭を復活させ、さらに「佛蘭西饅頭（フランスまんじゅう）」を開発しました。フランス饅頭は、ビスケット風の生地でこしあんを包み、メレンゲやオレンジピールを載せて焼き上げた洋風の饅頭です。

銅鑼焼きの復活

1998年には、古書でその存在を知った雑誌社の依頼で、資料を基に「銅鑼焼き」を復活させました。新川の店舗には、木村荘八の書や、朝比奈宗源の看板、宮田重雄ののれんが飾られています。べったら市の日には、「切山椒」や「喜利羊肝」が販売されます。

柳橋と神楽坂の梅花亭

中村市太郎の次男から始まった柳橋の梅花亭は、三笠山や三色梅最中などを販売しています。花柳界では土産物として重宝され、幸田文や大隈重信も顧客に名を連ねていました。大隈邸には、毎日箱車で菓子を納品していたといいます。

神楽坂の梅花亭の誕生

柳橋梅花亭の職長だった井上松蔵は、戦時中に疎開先で和菓子を作り、柳橋で販売していました。その功績が認められ、のれん分けを許されました。松蔵は、戦後のシベリア抑留中に「母の作るかき餅」を思い、帰国後に「鮎の天ぷら最中」を開発しました。

新たな挑戦と進化

その後、神楽坂に移転した梅花亭は、松蔵の息子である2代目、弟の3代目、そして2代目の息子である4代目へと引き継がれました。4代目は、「雲を食べてみたい」という発想から「浮き雲」という菓子を開発しました。2014年には全国和菓子協会から「優秀和菓子職」として認定されました。

梅花亭の現在

梅花亭は、各店舗がそれぞれの歴史と伝統を守りながら、新しい挑戦を続けています。伝統の和菓子を守りつつ、新しい発想や技術を取り入れることで、時代を超えて多くの人に愛される和菓子店として、その歴史を刻み続けています。

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