手代

江戸時代の地方役人「手代」：農政を支えた縁の下の力持ち

江戸時代中期以降、郡代や代官といった地方役人の下で、農政に携わった下級役人を「手代（てだい）」と呼びました。地方役人の一種であり、幕府の重要な役割を担っていた彼らは、現代の地方公務員や企業の中間管理職に相当する存在と言えるでしょう。

幕府と諸藩における手代

幕府代官所の手代は、地方事情に精通した百姓や町人などから選ばれ、勘定所の許可を得て採用されました。多くは村役人や町役人の子弟が務め、最初は書役として採用され、経験を積むことで手代、そしてさらに上位の役職である元締手代へと昇進していきました。優秀な手代は、幕臣に登用されることもありました。

例えば、岸本就実（きしもとなりよし）は美作国の庄屋の子弟でしたが、倉敷代官所の下役として採用され、後に幕臣に登用。下野国藤岡代官所や真岡代官所の代官となり、天明の大飢饉などによる農村の荒廃復興に尽力した人物として知られています。

手代の給与は代官所の経費から支出され、享保10年（1725年）以降は金20両五人扶持が一般的でした。元締手代になると、金30両五人扶持と、より高い給与が支払われました。

諸藩の手代も、幕府代官所の手代と同様に、地元の農民などから採用され、代官の下で農政業務に従事しました。給与の額や形態は藩によって異なりましたが、手代の上には、手代たちを取りまとめる手代元締（または元締手代）が置かれていました。勤勉な手代には、苗字帯刀、あるいは帯刀か名字のどちらかが許される場合もありました。

福山藩では、「御代官手代」と呼ばれ、定員12名、15俵から18俵2人扶持の給与が支払われ、全員が名字帯刀を許されていたと記録に残っています。代官が3名であったことを考慮すると、1人の代官につき4人の手代が配属されていた計算になります。

商家の手代

「手代」という呼称は、商家の従業員にも用いられました。大坂の船場商家の組織においては、旦那、番頭、手代、丁稚という序列があり、手代は丁稚奉公を終えた17、18歳で元服した者が昇進する役職でした。現代の会社組織で言えば、係長や主任といった中間管理職に相当します。

丁稚が力仕事や雑用が中心であったのに対し、手代は接客や経理、商品吟味、得意先回りなど、商いの中核を担う業務に携わりました。丁稚時代とは異なり、給与が支払われるのが一般的でした。

旧商法では「番頭」「手代」という用語が用いられ、事業主から営業権限の一部を委任された使用人を指していましたが、現行法ではより広い概念である「商業使用人」として定義されています。

手代の役割と歴史的意義

手代は、江戸時代の地方行政や商業において重要な役割を担っていました。彼らは、代官や郡代、商人といった上位役人の下で、日々の業務を支え、地方社会の安定に貢献しました。その存在は、現代社会における地方行政や企業組織のあり方を考える上で、重要な示唆を与えてくれると言えるでしょう。彼らの役割を理解することは、日本の歴史と社会構造をより深く理解することに繋がります。

参考文献

（具体的な文献名をここに追加）

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