森本一久

森本一久（もりもとかずひさ）は、安土桃山時代から江戸時代初期を生きた武将です。主君である加藤清正に深く仕え、その重臣として活躍しました。通称は儀太夫（または義太夫）と称し、加藤家の要衝を担う存在として知られています。加藤家の主要な家臣団である「加藤十六将」の一人に名を連ねるだけでなく、飯田直景、庄林一心と並んで「加藤家三傑」と称されるほど、清正からの信頼が厚い人物でした。その生涯を通じて、類まれな武勇と優れた築城技術を発揮し、加藤家の興隆を支えました。

永禄3年（1560年）、摂津国の国人である森本一慶の子として生まれた一久は、若い頃から加藤清正の家臣となりました。彼は特に攻撃的な戦いを得意とし、その勇猛果敢な性格で多くの武功を挙げました。加藤家の重臣として、彼は様々な戦役に参加しています。

天正17年（1589年）に発生した天草国人一揆の討伐戦においては、一久は大きな活躍を見せました。この功績により、豊臣秀吉から加藤清正を通じて「白鳥毛（しらとりげ）」と呼ばれる名のある長槍を賜ったと伝えられており、これは彼がその当時から武将として高い評価を受けていたことを示しています。

豊臣秀吉による朝鮮出兵（文禄・慶長の役）においても、森本一久は重要な役割を果たしました。特に慶長元年（1597年）に発生した第二次晋州城攻防戦では、飯田直景と共に「亀甲車」と呼ばれる装甲車を用いて城の堅固な石垣を破壊するという革新的な戦術を実行しました。この攻城戦では、敵の激しい抵抗の中、彼は黒田長政の家臣として知られる後藤基次と激しく先陣争いを繰り広げながらも、見事に一番乗りを果たしました。この抜群の功績に対し、豊臣秀吉は一久の武勇と忠義を称賛し、彼の名に通称として「義」の字を与える栄誉を与えたといわれています。これにより、彼は森本儀太夫（ぎだゆう）の通称に加え、森本義太夫（ぎだゆう）とも称されるようになりました。

森本一久の才能は、武辺だけにとどまりませんでした。彼は土木普請、特に城郭建築にも非常に長けていました。加藤清正が築いた難攻不落の城として名高い熊本城の築城においては、彼は筆頭責任者としてその指揮を執り、縄張りから石垣、櫓の配置に至るまで、その手腕を発揮しました。また、天下普請として行われた江戸城の築城にも貢献しており、彼の築城技術が幕府からも高く評価されていたことがうかがえます。これらの実績は、彼が単なる一介の武将ではなく、戦略的な視点と技術的な知識を兼ね備えた多才な人物であったことを証明しています。

加藤家の重鎮として清正を支え続けた森本一久は、清正の死後も加藤家に仕えましたが、加藤家は改易の憂き目に遭います。その後、一久は晩年を過ごし、慶安4年6月11日（新暦1651年 7月28日）にその生涯を閉じました。彼の墓は京都の乗願寺にあります。

一久には二人の息子がいました。嫡男である森本一友もまた父に劣らぬ武勇の士で、「加藤家二十四将」の一人に数えられています。一友は一久の死後、儀太夫の通称を継ぎましたが、加藤家の改易により浪人となりました。しかし、一友の子である森本四郎兵衛は、島原・天草一揆の鎮圧戦で功を立て、後に細川忠利が藩主を務める熊本藩に150石で仕えることとなり、森本家の血筋を繋ぎました。次男の森本一房は、慶長18年（1613年）に朱印船貿易でカンボジアに渡り、アンコール・ワットに日本語の墨書（落書）を残した人物として歴史に名を残しています。

森本一久は、戦国乱世から太平の世へと移り変わる激動の時代を駆け抜け、加藤清正という稀代の英傑を支えた忠実な家臣であり、武勇と技術を兼ね備えた多才な武将でした。彼の功績は、加藤家の歴史、そして日本の戦国・江戸時代の歴史に深く刻まれています。

もう一度検索