植苗

植苗（うえなえ）

北海道苫小牧市に位置する地名。

地名の由来

植苗という地名は、アイヌ語の「ウェン・ナイ」に由来すると考えられています。「ウェン・ナイ」は日本語に訳すと「悪い川」を意味します。この名称は、もともと現在の美々川の支流の一つを指していたとされ、おそらくは湿地帯から流れ込む茶褐色の水の色や、流れの様子を見て名付けられたものと推測されています。

地理

植苗地区は、苫小牧市の中心市街地から北東方向へ約12キロメートルの位置に広がっています。その面積は約71平方キロメートルに及び、広大な土地を有しています。地区の北側は、苫小牧市美沢地区を挟んで千歳市に接し、東側は安平町早来地区と、南側は苫小牧市柏原地区と隣接しています。この地域は、特に渡り鳥の飛来地として有名なウトナイ湖を区域内に擁しており、豊かな自然環境が特徴です。

歴史

植苗村の成立

明治時代に入り、開拓が本格化する中で、勇払郡に散在していたアイヌの集落（コタン）の整理・統合が進められました。1873年（明治6年）、勇払郡開拓使出張所が郡内の人口調査に基づいて提出した『地誌提要』によれば、当時の集落数は34か村にも上りました。この状況があまりに複雑であると考えた勇払詰の大主典であった黒沢正吉は、集落の統合整理を札幌本庁に上申し、同年9月、勇払郡は16か村へと簡素化されました。
この時、ウヱンナイ村、ヒヒ村、タフコフ村、ユウフリ村の4つの集落が合併し、新たなウヱンナイ村が誕生しました。その後、この村は植苗村と改称されます。発足当初の植苗村の区域は広大で、現在の安平町の一部も含まれていました。記録に残る最初の和人開拓者としては、駅逓などを務めた柄沢鶴吉が挙げられ、遅くとも1876年（明治9年）頃にはウトナイ湖畔の沼ノ端に居を構えていたと見られています。また、1894年（明治27年）頃には、この地に豊富だったドロノキを原料とするマッチ工場が建てられましたが、原料の枯渇や経済情勢の変化により、明治時代末期にはその姿を消しました。

安平村の分村

植苗村の東部に位置するアビラ地区は、長らくアイヌすら定住しない未開の地でした。しかし、1890年（明治23年）に着工した北海道炭礦鉄道室蘭線の建設が進み、夕張線との分岐点が設けられたことで、にわかに注目を集めるようになります。1892年（明治25年）8月1日に追分停車場が開業すると、鉄道交通の要衝となったアビラ地区には多くの人が移り住み、急速に市街地が形成されました。人口増加に伴い児童数も増え、1893年（明治26年）に私設教育が始まり、翌1894年（明治27年）には苫小牧尋常小学校植苗分校が創立されました。1895年（明治28年）には、地区の名称が駅名にちなんで「追分」と改められます。1897年（明治30年）頃には、植苗村追分地区と勇払村早来地区（こちらも鉄道駅開業で発展）を合わせた戸数が、戸長役場が置かれていた苫小牧本村を上回るほどになりました。しかし、両地区の住民は役場での手続きのために一日がかりで苫小牧まで出向く必要があり、この不便さから分村独立の機運が高まります。その結果、1900年（明治33年）6月1日、植苗村から追分を中心とする区域が分離され、早来を中心とする勇払村の一部と統合されて、新たな安平村が設置されました。

苫小牧村への合併と開拓の進展

1902年（明治35年）4月1日、北海道二級町村制の施行に伴い、植苗村は他の6か村とともに合併し、新しい苫小牧村が誕生しました。合併後も「植苗村」の名称は大字として引き継がれました。安平村分村の原因となった鉄道駅の開業は、追分地区の市街化だけでなく、植苗の他の地区への入植者の関心をも高めました。駅に近いこと、当時はまだ森林が豊かであったこと、そして何より水害が少ないことが魅力でした。北地区、美々地区、南地区といった各方面で開拓が進められ、多くの人々が移り住み、農耕や製炭などに従事しました。特に美々地区では水田が開かれ、鳥類研究家の折居彪二郎も自然に魅せられてこの地に移住しました。

大正期の第2次開拓

第一次世界大戦の影響による好景気は、木材需要を高め、植苗村の森林資源開発が進みました。しかし、森林開発に従事した多くの作業者は、木を伐り終えると他の地域へ移ってしまい、定住して営農する者は少なかったとされます。千歳に近い広大な原野でも開拓が試みられましたが、条件の悪さから多くの挫折者を生みました。一方、美々地区では人口が回復し、水田や畑作に加え製炭も盛んに行われました。南地区では酪農業を手掛ける人が増え、植苗トアサ地区一帯は牧場となっていきました。

昭和戦前の第3次開拓

1926年（大正15年）、沼ノ端と苗穂を結ぶ私鉄が開通し、植苗駅が開設されました。駅前には唯一の商店が設けられ、地域の拠点となります。酪農地帯となっていた植苗トアサ地区の民有地は、1931年（昭和6年）に北海道によって買い上げられ、入植希望者に貸し付けられました。多くの人々が入植しましたが、土地の疲弊により生活は苦しく、補助金に頼る状況が続きました。駅に近い地域では酪農が主体となり、北海道を代表する酪農家となる人物も現れます。フモンケに近い地域では牛よりも馬の飼育が多く行われました。1942年（昭和17年）には、野幌機農学校の植苗酪農実習農場が開設されるなど、酪農が主要な産業として定着していきます。

字名改正

1928年（昭和3年）の時点では、大字植苗村の下に多くの字名が存在しましたが、その大半はアイヌ語由来で日本語話者には分かりづらく、境界も不明確でした。このため、苫小牧町は字名地番改正に着手します。1943年（昭和18年）10月、苫小牧町内の大字はすべて廃止されることとなり、大字植苗村も現在の植苗、美沢、沼ノ端の各地区に細分化されました。

戦後

第二次世界大戦終結後、大都市から食糧難や失業を理由に農村へ戻る若者が増加し、植苗も一時的に活況を呈しました。人手が増えたことで食糧増産が進み、地域活動も活発になります。新制中学校の分校建設を機に、それまでの集落単位の活動から、学校を中心とした地域全体の組織化が求められるようになり、1950年（昭和25年）には植苗全体を包含する「植苗振興会」が発足しました。農地改革により多くの小作農が自らの土地を得ましたが、土地を転売して町へ転出する人も見られました。一時は住民転出で寂れた南地区でしたが、1950年代後半からウトナイ温泉やユースホステル、遊園地などが開業し、一大レジャーランドとして賑わいます。しかし、バブル崩壊後の観光産業の低迷や、自然保護意識の高まりを受けて、こうした施設は次第に衰退し、多くが閉鎖へと追い込まれました。一方で、ウトナイ湖周辺の豊かな自然そのものに価値を見出す考え方が広まり、地域の観光資源としてのあり方が変化します。1985年（昭和60年）にはウトナイ湖・美々川流域が「北海道自然100選」に選定され、1992年（平成4年）1月17日にはウトナイ湖がラムサール条約湿地に登録されました。21世紀を迎えた植苗は、自然保護という新たな観光資源を持つ一方で、工業開発も進められており、その両立という現代的な課題に直面しています。

主要施設

• - JR北海道 植苗駅
• - 苫小牧市立植苗小中学校
• - 道の駅ウトナイ湖
• - 植苗神社

遺跡

• - タプコプ遺跡
• - 植苗貝塚

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