楊栄

楊栄（よう えい）は、明朝初期に活躍した政治家であり、その生涯は洪武4年（1371年）から正統5年（1440年）まで続きました。字は勉仁、初めは楊子栄と名乗っていました。『明史』では、楊士奇、楊溥と共にその功績が記されています。

建寧府建安県出身の楊栄は、建文2年（1400年）に進士に合格し、その才能を認められて永楽帝に抜擢されました。永楽帝の治世において、内閣に加わり、永楽16年（1418年）からの6年間は内閣大学士（首輔）という重職を担い、国家の中枢で活躍しました。その後も重臣として重用され、楊士奇、楊溥と並び「三楊」と称されるほどの存在となりました。永楽帝、洪熙帝、宣徳帝、正統帝の四代にわたって朝廷に仕え、その政治手腕は高く評価されています。

政治家としての手腕に加え、楊栄は文学にも造詣が深く、台閣体の創始者としても知られています。台閣体は、明代の公文書や文学に影響を与え、その後の文学史においても重要な位置を占めています。

しかし、楊栄の生涯には批判的な側面も存在します。宣徳帝が胡皇后を廃位しようとした際、楊栄は皇帝の意向を汲み、皇后の罪を捏造して並べ立てました。この行為は、かえって皇帝の不興を買う結果となりました。宣徳帝自身が皇后の交代を望み、その理由を考えさせたにも関わらず、楊栄の作り上げた罪状があまりにも事実とかけ離れていたため、皇帝の怒りを招いたとされています。この一件は、楊栄の政治的な駆け引きと、時の権力者への迎合を示唆する出来事として捉えられています。

正統5年（1440年）7月、楊栄は病のためにこの世を去りました。死後、太師を追贈され、文敏という諡号が贈られました。楊栄の生涯は、政治家としての才能と、その一方で権力に迎合する側面も持ち合わせていたことを示しています。

参考文献

京都大学文学部東洋史研究室「改訂増補　東洋史辞典」1967年「楊栄」
三田村泰助「中国文明の歴史 8 明帝国と倭寇」中公文庫、2000年、P214～216

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