楊貴妃 (能)

楊貴妃（ようきひ）

「楊貴妃」は、日本の能楽の一つであり、金春禅竹によって創作されました。この作品は、中国の唐代詩人である白居易の名作『長恨歌』を題材にしており、さらに日本の『源氏物語・桐壺』からの要素も取り入れています。このため、作品は中華と日本の文化を融合させた独自の色合いを持つものとなっています。構成は一場物で、能楽の中では三番目物、すなわち鬘物に分類されます。

あらすじ

物語は、唐の皇帝である唐玄宗が亡き楊貴妃の霊を求めるところから始まります。彼の命を受けた道教の方士は、楊貴妃の霊を探し求めて常世国にある蓬莱宮へと向かいます。方士はそこで、楊貴妃が住んでいる太真殿の所在を尋ね、真相を掴んだ上で訪れることに決めます。

ついに、方士は九華帳の奥から華やかな漢服を纏った楊貴妃を目にします。彼女は、唐玄宗が自分を心から愛していたことを知り、感極まって涙を流します。方士は彼女に、玄宗への思いを伝えるとともに、彼からの願いを託すように頼みます。楊貴妃は、自らの簪を形見として方士に託け、これを唐玄宗に届けるように伝えます。彼女は自らの過去を思い出させる『霓裳羽衣曲』を舞い踊り、涙ながらに方士を見送ります。舞の中で、彼女はこの世の無常さを嘆き、愛する者との再会が叶わぬ切なさを抱きしめるのです。

この作品は、愛の美しさとともに、別れによる悲しみや時間の流れを描いた情緒豊かな物語です。また、視覚的にも美しい舞いや衣装が見どころとなっており、観客に深い感動を与えます。能楽において、この作品はただの文学的表現に留まらず、古典文化の一部として現代にも脈々と受け継がれています。

「楊貴妃」は、その詩的な内容と独特の演出により、多くの人々に愛され続けている作品です。観る者は、舞台上の華やかさに心を奪われつつ、物語の背後にある深いテーマについても考えさせられることでしょう。

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