楠本碩水

楠本碩水（くすもと せきすい）は、天保3年1月26日（1832年2月27日）に肥前国平戸藩（現在の長崎県佐世保市針尾島）で生まれ、大正5年（1916年）12月23日に没した儒学者です。諱は孚嘉（ふか）、字は吉甫（きっぽ）、通称は謙三郎（けんざぶろう）、号は碩水（せきすい）、天逸（てんいつ）と称しました。楠本端山（くすもと たんざん）は実兄にあたります。

幼少より学問に励み、平戸藩の藩校である維新館（いしんかん）で学びました。その後、著名な儒学者である広瀬淡窓（ひろせ たんそう）に入門し、さらに肥後国長洲（現在の熊本県長洲町）の月田蒙斎（つきだ もうさい）から、崎門（きもん、山崎闇斎の学派）の朱子学を深く学びました。碩水は、これらの師から受けた薫陶をもとに、独自の学問体系を築き上げていきました。

25歳で維新館の助教となり、教育者としての道を歩み始めます。その後、江戸に遊学し、佐藤一斎（さとう いっさい）に師事。佐藤一斎は、当時の著名な儒学者であり、碩水は彼から大きな影響を受けました。明治元年（1868年）には、新政府から貢士（こうし）に任ぜられ、大学少博士（だいがくしょうはかせ）となります。しかし、明治3年（1871年）に職を辞し、故郷に戻り隠遁生活を送ります。故郷では、兄の端山と共に明治14年（1882年）に鳳鳴書院（ほうめいしょいん）を設立し、後進の育成に尽力しました。

碩水の学問的業績は、『朱王合編』（しゅおうがっぺん、全4巻付1巻）、『碩水先生遺書』（せきすいせんせいいしょ、全12巻）などの編著にまとめられています。これらの著作は、『楠本端山・碩水全集』に収録されており、彼の思想や学問を今日に伝える貴重な資料となっています。

楠本碩水は、激動の時代に生きた儒学者として、伝統的な学問を深く探求する一方で、時代の変化にも柔軟に対応しました。彼の教育者としての功績、そして学問的遺産は、今日においても高く評価されています。

参考文献
「朝日日本歴史人物事典」朝日新聞社 1994年
「日本人名大辞典」講談社 2001年

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