樋口覚

樋口覚の生涯と業績

樋口覚（ひぐち さとる、1948年1月20日 - 2022年11月24日）は、日本の文芸評論家として知られ、多くの文学作品を通じて昭和文学の研究や評論活動に貢献しました。彼の祖父樋口長衛は信州の教育者として長野県立長野中学校の校長を務め、祖母樋口志保子は歌人として詩の世界で活躍していました。加えて、父の樋口寛も国文学者として名を馳せ、文学的な家庭環境の中で育った覚は、早くから文学に対する興味を持つこととなります。

学生時代と文学への目覚め

長野県長野市に生まれ育った樋口は、長野高等学校を経て一橋大学社会学部に進学すると、大学生活を通じて短歌に目を向けるようになりました。特に、著名な歌人であった斎藤史から直接短歌を学ぶ中で、彼の詩的感受性が育まれました。この頃のバロック音楽への熱中も、彼の文学観に影響を与えたと言われています。

大学卒業後は株式会社医学書院にて編集者としてのキャリアを開始しながら、歌人活動をスタートさせました。その後、彼は文芸評論の道に進むこととなります。大岡昇平や中原中也、富永太郎といった昭和の詩人・文学者への言及を通じて、樋口は文芸評論の領域でもその名を知られる存在になっていきました。

主な業績と受賞歴

樋口覚の評論活動や作品は、多岐にわたります。彼は1994年に『一九四六年の大岡昇平』で第22回平林たい子文学賞を受賞し、続いて『三絃の誘惑 近代日本精神史覚え書』が1997年に第10回三島由紀夫賞を受賞しました。また、彼は「海洋文学としての日本文学」という独自の視点から作品を執筆するきっかけとして舟の研究を挙げています。2005年には『書物合戦』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど、彼の作品は高く評価されてきました。

彼の著作

樋口は多数の著作を残しており、その中には『富永太郎』や『天馬塚 樋口覚歌集』、『アルベルト・ジャコメッティ』、『昭和詩の発生』などが含まれています。彼の評論は、単に作品の評価にとどまらず、文学の背景や文脈を探る深い考察がなされています。特に『川舟考 日本海洋文学論序説』や『近代日本語表出論 天皇の「人間宣言」から埴谷雄高の「死」まで』など、社会的背景に対する鋭い視点が込められています。

晩年と不幸な死

樋口は2008年には財団法人日本近代文学館の専務理事に就任し、多忙な日々を送っていましたが、2022年11月24日、埼玉県所沢市の高齢者福祉施設にて肺炎のため74歳で逝去しました。彼の死は文芸評論界にとって大きな損失であり、彼が残した遺産は今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

まとめ

樋口覚の人生と業績は、日本文学、特に昭和の詩人たちを理解する上での重要な足がかりとなります。彼の評論、歌、著作は、現代の文学ファンにとっても参考にされ続けており、彼の視点に触れることは、文学の奥深さや広がりを感じさせることでしょう。

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