標準ダイナミックレンジビデオ

標準ダイナミックレンジ（SDR）ビデオ：歴史と技術

標準ダイナミックレンジ（SDR）ビデオは、長年にわたって映像制作の標準として用いられてきた技術です。ブラウン管テレビ（CRT）の輝度特性を基盤としており、その最大輝度が約100cd/m²であるという制約を受け継いでいます。最初のCRTテレビは1934年に登場し、カラーCRTテレビは1954年に開発されました。これらの初期のテレビ技術は、現在のSDRビデオの基礎となっています。

技術的な側面

人間の目は非常に広いダイナミックレンジ（明るさの範囲）を感知できますが、SDRビデオはその範囲を大幅に狭めて表現します。具体的には、8bitのSDRビデオでは、5%の輝度閾値を用いると約6段、10bitのプロ用SDRビデオでも約10段のダイナミックレンジしか表現できません。これは、人間の視覚が感知できる14段前後と比較すると非常に狭い範囲です。この制限は、主に従来のガンマ曲線と、限られたビット深度によるものです。

従来のガンマ曲線は、CRTの特性に合わせて設計されており、暗部の表現を重視した曲線形状をしています。Rec.601やRec.709といった規格で定義されており、低照度部分のカメラノイズを抑制する役割も担っていました。しかし、このガンマ曲線は、HDR時代においては、ダイナミックレンジの制限という欠点を露呈しています。

Rec. 601のガンマ曲線の例を数式で示すと以下のようになります。


E = {
4.500L, L < 0.018
1.099L^0.45 - 0.099, L >= 0.018
}


ここで、Eは表示輝度、Lは入力輝度を表します。

ITU-R勧告BT.1886は、SDRビデオにおける電気光伝達関数（EOTF）を規定しています。このEOTFは、CRTのビデオ信号への応答をモデル化したもので、2011年にITUから発表されました。

SDRビデオの制限とHDRとの比較

SDRビデオは、従来のガンマ曲線と限られたビット深度により、ダイナミックレンジが狭く、表現できる明るさの範囲が限られています。特に、明るい部分の階調表現が不足しやすく、HDRビデオと比較すると、コントラストや色彩表現が劣ります。ヴェーバー‐フェヒナーの法則に近い伝達関数を用いることで、同じビット深度でもより広いダイナミックレンジを実現できます。HDR規格であるハイブリッド・ログ・ガンマ（HLG）やSMPTE ST 2084などは、より広いダイナミックレンジを実現するために異なる伝達関数を用いています。HLGはSDRディスプレイとの互換性も考慮されています。

まとめ

SDRビデオは、長年映像制作の標準として活躍してきましたが、HDRビデオの登場により、その限界が明らかになっています。HDRビデオは、より広いダイナミックレンジとより高度な色彩表現を実現し、よりリアルで鮮やかな映像体験を提供します。しかし、SDRビデオは依然として多くの場面で使用されており、その歴史的意義と技術的な特徴を理解することは、映像制作において重要な要素です。

関連用語

ハイダイナミックレンジ（HDR）
ダイナミックレンジ
ガンマ補正
Rec. 601
Rec. 709
sRGB

外部リンク

* ITU-R Recommendation BT.1886

もう一度検索