横堀川 (テレビドラマ)

横堀川

テレビドラマ『横堀川』（よこぼりがわ）は、1966年 4月4日から1967年 3月27日まで、NHKにて一年間にわたり放送されました。作家・山崎豊子の小説『花のれん』と『暖簾』を構成の軸とし、脚本家・茂木草介が大胆に再構築して生み出された作品です。

作品の主題と概要

このドラマは、明治29年（1896年）から放送当時の昭和41年（1966年）にかけての約70年間を舞台に、大阪で暮らす庶民たちの力強い生き様を描き出します。

物語の中心となるのは、淡路島から大阪へと渡ってきた若者・八田吾平（長門裕之）と、船場の老舗昆布商「浪花屋昆布店」の一人娘・多加（南田洋子）です。血縁関係や夫婦ではないものの、互いをビジネス上の「同志」として認め合い、時代の大きな波に翻弄されながらも、それぞれの商売や人生を切り開いていく二人の交流と別れが克明に描かれます。脚本を担当した茂木草介が得意とする「浪華の二人の商人のど根性物語」の系譜に連なる作品であり、後の『けったいな人びと』シリーズと並び、NHK大阪放送局制作ドラマの初期を代表する作品として位置づけられています。

原作である山崎豊子の小説から着想は得ているものの、物語の大部分は茂木草介による独自の創作によって構成されています。

物語の展開

物語は、明治29年3月、故郷の母から餞別にもらったわずかなお金を手に、立派な人間となって錦を飾ることを夢見て大阪・天保山の船着場に降り立った吾平の姿から始まります。頼みの綱であった紹介状を持つ口入れ屋が当てにならず途方に暮れていた吾平は、偶然通りかかった老紳士に声をかけられます。この人物こそ、寛永8年（1630年）創業という老舗昆布商「浪花屋昆布店」の当代・浪花屋利兵衛でした。

利兵衛の温情により浪花屋で丁稚奉公を始めた吾平は、利兵衛の一人娘である多加と出会います。年の近い二人はすぐに打ち解け、親交を深めます。吾平は類稀な勤勉さと向学心でめきめきと頭角を現し、先輩たちの嫉妬やいじめにも屈することなく、異例の若さで手代、そして番頭へと出世していきます。

一方、多加は本町の女学校を卒業後、呉服問屋「河島屋」の跡取り息子・吉三郎と恋愛結婚しますが、吉三郎は生まれつきの怠け者で、浪費癖がひどく、寄席芸人たちと遊び歩く始末。それでも多加は吉三郎を深く愛し、何も言えずに見守ります。同時期、吾平も千代と結婚し、浪花屋の商いはますます繁盛します。

明治の終わり頃、浪花屋はもらい火によって全焼する災難に見舞われますが、利兵衛は見事に店を再建。その後、長年育てた吾平に暖簾を譲り、世を去ります。一方、河島屋は吉三郎の放蕩が祟ってついに倒産。吉三郎は新たに寄席を始めたいと言い出し、多加は夫を支えるため、落語家や漫才師の世話に奔走します。

それぞれが子宝にも恵まれ、一見幸せな日々を送りますが、吉三郎は突然この世を去ります。残された多加は、夫が始めた寄席を女手一つで切り盛りすることになります。関東大震災を経て昭和に入り、日本は戦争へと突き進んでいく激動の時代の中で、吾平と多加はそれぞれの人生を懸命に歩み続けるのです。

受賞と評価

本作は高い評価を受け、吾平役を演じた藤岡琢也が第4回ギャラクシー賞を受賞しました。また、脚本を手がけた茂木草介は、放送文化賞とテレビ・ラジオ記者会賞を受賞しています。

主な出演者とスタッフ

出演：南田洋子（多加）、長門裕之（吾平）ほか
原作：山崎豊子
脚本：茂木草介
演出：辻元一郎
音楽：田中正史
制作：棚橋昭夫

現存する映像

残念ながら全話の映像は現存していませんが、以下の4本が現在のところ確認されています。

第1回（1966年 4月4日放送）
第15回（1966年7月11日放送）※キネコで現存
第38回（1966年12月19日放送）
最終回（1967年 3月27日放送）

このうち、第1回と最終回は、NHKアーカイブスの公開ライブラリーなどで視聴することが可能です。以前は他の回も視聴できた時期があったようですが、現在は状況が変わっています。

制作エピソード

プロデューサーを務めた棚橋昭夫は、原作の山崎豊子に自身の小説二作を「合体」させる企画を持ち込んだ際、「それは面白いアイデア。私の作品を“養子”にあげます。自由に育ててください」と快諾されたエピソードを語っています。完成した作品も山崎は喜んでくれたといい、棚橋にとって「ドラマの楽しさを教えてくれた人」として、山崎への感謝を述べています。

主演の南田洋子と長門裕之は、実生活でもおしどり夫婦として知られ、映画での共演も多かった二人ですが、この『横堀川』を生前のインタビューで特に印象に残る共演作として度々挙げていました。

ドラマ制作においては、明治時代の船場の町並みや商家を再現するのに苦労がありました。戦災で大部分が失われていたため、明治15年の木版画や当時の店の絵、さらには船場の高齢者の証言、そして何よりも大阪育ちの脚本家・茂木草介のイメージを頼りに、当時の生活空間を創り上げていったといいます。

また、ドラマ版と、放送開始後に公開された同名の映画版（松竹制作、1966年公開）に共通するのは、関西出身または在住の俳優が多く起用されている点です。特に松竹新喜劇の俳優も多く出演し、両作品に出演した俳優も複数存在します。