横当島

横当島

横当島（よこあてじま）は、鹿児島県の吐噶喇列島に属する最南端の無人島です。十島村に区分され、宝島の南南西およそ42km、また奄美大島名瀬港からは北西へ約60kmの沖合に位置しています。古くは与波天島（よはてじま）とも呼ばれ、宝島の一部住民からはオガミという呼び名で知られています。

地理と地勢

この島は、海底火山の活動によって誕生した火山島であり、直径およそ7×10kmにもおよぶ広大な海底カルデラの外輪山の一部を形成しています。島自体は、東峰（標高494.8m）と西峰（標高259m）という二つの異なる成層火山体から構成されており、その間がおよそ150m幅の狭い砂洲によって連結された、あたかも瓢箪のようなユニークな形状をしています。東峰の山頂部には、直径約350m、深さ約260mに達する火口地形が比較的良好な状態で残されており、地質調査からは、最新の噴火活動がおよそ1万年前以降に発生したことが示唆されています。現在も火口内部には照葉樹林が広がり、微弱ながら噴気が確認できます。

島の周囲は険しい海食崖に囲まれ、最高点まで急峻な傾斜が続く地形は、定住には極めて不向きです。加えて、火山ガスに含まれる硫化水素の臭いが常時漂う環境であるため、歴史上の記録に人が永続的に居住した形跡は見られません。地質は主に安山岩で構成されています。

歴史と伝説

横当島には有史以来、人が定住した記録がなく、孤立した環境であるため、その詳細な歴史はあまり分かっていません。しかし、江戸時代末期に薩摩藩士・名越左源太によって著された『南島雑話』には、与波天島として紹介されています。この書物には、横当島とその付属島嶼である上ノ根島にまつわる興味深い伝説が記されています。

伝説によれば、この島々には三姉妹の女神が宿るとされており、長女は奄美大島の男神に、次女と三女は日本の男神にそれぞれ愛されたといいます。しかし、これを嫉妬した長女の女神が島の噴火を引き起こしたと伝えられています。噴火を鎮めるため、人々は男根を模した木製の供え物を作り、祈りを捧げたとされています。以来、船舶が横当島付近を通過する際には、乗船している男性船員の数と同じ数の男根形を作り、島に供えて航海の安全と順風を祈る風習があったと伝えられています。

近代に入っても定住者はいませんでしたが、1974年から1994年までの間には、奄美大島の業者がビロウ（ヤシ科の植物）の葉を採取するために定期的に島を訪れていました。この時期に島へ持ち込まれたヤギが繁殖し、現在も野生化して生息しています。また、当時の活動の痕跡として、使用されていた小屋や鉄塔の跡などが島内に残されています。

生物相

横当島は無人島であり、特異な環境を持つことから、他の吐噶喇列島の島々と同様に、独自の進化を遂げた昆虫や植物などの固有種や亜種が多く存在することが推測されています。しかし、上陸が困難であることなどから、これらの生物に関する詳細な学術調査はあまり進んでいないのが現状です。島には前述のように、かつて持ち込まれたヤギが野生化しており、その生態系への影響が懸念されています。

付属島嶼：上ノ根島

横当島の北方およそ2.4kmには、上ノ根島（かんのねじま、または、かみのねじま）と呼ばれる無人島があります。標高は280mで、この島も横当島を形成する海底カルデラの一部であると考えられています。上ノ根島の北西沖には、標高63mの上ノ根北西小島という小さな島も存在します。上ノ根島については、19世紀にマシュー・ペリーが日本を訪れた際に「クレオパトラ・アイランド」と名付けたという伝承も語り継がれています。横当島と同様に、ここにも移入されたヤギが野生化しています。

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