横歩取り (対中飛車)

対中飛車横歩取り：歴史と変遷

対中飛車横歩取りは、古くから存在する将棋の戦術です。後手の中飛車が飛車先交換型を採用し、先手の居飛車陣に3四の歩を突かせて横歩取りを仕掛ける戦法です。相掛かり横歩取り戦法と関連が深く、江戸時代の天野宗歩などの棋士も用いていました。戦後も、1947年の名人戦、塚田正夫対木村義雄戦でも見られます。

しかし、1980年代以降は、ゴキゲン中飛車の出現と普及により、この戦術は衰退しました。ゴキゲン中飛車は、角交換による急戦を重視する戦法で、横歩取りよりも積極的に攻め込むスタイルです。そのため、後手は横歩取りよりもゴキゲン中飛車のような急戦を選択するようになり、先手も横歩を取らない指し方を選ぶことが多くなりました。現代の棋戦では、対中飛車横歩取りはあまり見られなくなっています。

戦術の特徴と手順

対中飛車横歩取りの基本的な手順は、以下の通りです。後手は、角道を開いた状態で5筋の歩を突き、先手は居飛車を選択、その後、後手が5五歩と中央を固め、角交換を防ぎます。先手は2筋歩交換を行い、後手は3二金と上がって飛車の成り込みを防ぎます。ゴキゲン中飛車の出現後は、この段階で後手は5六歩と突いて角交換を狙うのが一般的になり、複雑な乱戦に発展します。

先手の居飛車側は、この5六歩の突きを嫌うようになり、藤井猛九段などは▲5八金右と中央を固めてから2四歩と進める指し方を開発し、広く用いられるようになりました。

その後、先手は3四の歩を取り、後手は飛車を中央に振ります。後手は5筋の歩を突き、角交換を仕掛けます。この時、後手は△8八角成以外にも、△同飛という選択肢もあります。その後は、激しい攻防が展開し、難解な終盤戦に突入することが多いです。

代表的な棋譜

1988年の王位戦第4局、谷川浩司王位対森けい二九段戦では、後手の森九段が5五歩位取り横歩取らせ型を選択しました。先手の谷川王位は▲3四飛としましたが、これは江戸時代から存在する指し方であり、1845年の大橋宗民対天野宗歩戦でも見られます。

この対局では、森九段は△6二玉としましたが、天野宗歩は居玉で対応していました。先手が2六に飛車を戻すと、後手は△5六歩▲同歩△8八角成▲同銀と進み、△4四角と打つ展開となります。これは、前述の手順とは異なる展開です。

森九段は他の棋戦では、▲2四飛とされると△5六歩として、以下▲同歩に△同飛とする指し方を用いていました。この△同飛は、1936年に平野信助が坂口允彦相手に指して以来、1970年代には柿沼昭治がアマチュア棋戦で連勝を重ねた指し方です。プロ棋戦では、1977年に真部一男が加藤一二三相手に試み、木村嘉孝も用いていました。

当初、居飛車側は△同飛に対して▲5八歩と控え歩で対処していましたが、柿沼は▲5八金右と指すことで、居飛車側が有利に戦えることを示しました。森九段も、この手を指されて敗北した経験があります。そのため、▲2四飛に対しては、穏やかに△2三歩と対応する指し方も見られます。

翌年の王位戦でも、同じ対局が行われ、この時先手は▲2四飛と指し、△5六歩▲同歩△同飛に▲5八金右と指しました。

結論

対中飛車横歩取りは、長い歴史を持つ戦術ですが、ゴキゲン中飛車の出現によってその重要性は低下しました。現代の将棋では、他の戦術に取って代わられ、めったに見られない戦型となっています。しかし、その歴史的背景や、過去の棋譜から学ぶことは、現代の将棋の理解を深める上で役立つでしょう。

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