横歩取り3三桂

横歩取り3三桂：その歴史と発展

横歩取り3三桂は、後手番が採用する将棋の戦法です。基本的な横歩取りの進行から、後手が△3三桂と跳ぶことで特徴的な局面が形成されます。この独特な桂の跳びが、この戦法の核心と言えるでしょう。

戦法の起源と北村流

この戦法が広く知られるようになったのは、1980年代に北村昌男九段が用いたことがきっかけです。それまでは、△3三角と上がって相横歩取りになる展開が主流で、3三桂は奇襲的な手段として認識される程度でした。

北村九段は1981年、丸田祐三九段との早指し選手権で初めて3三桂戦法を指し、勝利を収めました。この対局は、持ち時間の少ない棋戦という状況も相まって、新戦法を試みる絶好の機会と判断したとのことです。北村九段自身、それまで他の棋士が3三桂戦法を用いるのを見たことがなかったと語っており、独自の発想による戦法だったと言えるでしょう。

北村九段は、将棋界に新鮮な風を吹き込むべく、既存の戦法にとらわれない柔軟な発想を重視していました。常に五分五分の勝負を目指し、相手の棋風を熟知した上で、3三桂戦法を誘導することで、有利な展開へと導こうとしたのです。

その後も北村九段は数局、3三桂戦法を指し、一定の成果を残しました。しかし、常に勝利を収めたわけではなく、敗れた対局も経験しています。これらの経験を通じて、戦法の改良や対応策の研究が進められていきました。

プロ棋士の間での普及と発展

3三桂戦法がさらに注目を集めるようになったのは、平成2年の棋聖戦、屋敷伸之九段対森下卓九段戦での採用が契機です。屋敷九段は、この対局で森下九段を破り、3三桂戦法の有効性を改めて証明しました。この対局では、先手の森下九段が採用した3八玉形が弱点となり、先手玉の中住まいが主流となる転換点となりました。

その後、先手中住まい玉に対応するため、後手は5筋歩の突き捨てによる玉頭攻めという戦法が開発されました。この戦法は、羽生善治名人と脇謙二七段の天王戦（平成4年6月）で顕著に現れ、現在では先手が持久戦を志向する場合の定跡として確立されています。

一方で、先手が急戦に打って出る展開も存在し、3三桂戦法は、その柔軟性から様々な変化に対応できる戦法であると言えます。

まとめ

横歩取り3三桂は、北村昌男九段によって生み出され、プロ棋士によって改良が重ねられてきた戦法です。その独特な桂の跳びと、様々な対応策を孕む柔軟性が、この戦法の魅力と言えるでしょう。将棋界に新たな風を吹き込んだこの戦法は、今もなお進化を続けています。 将棋を深く楽しむ上でも、知っておくべき重要な戦法の一つです。

参考文献

所司和晴『横歩取りガイド』
所司和晴『横歩取りガイドII』
羽生善治『羽生の頭脳〈9〉激戦!横歩取り』
羽生善治『羽生の頭脳10―最新の横歩取り戦法』
深浦康市『これが最前線だ！―最新定跡完全ガイド（最強将棋塾）』
所司和晴『横歩取り道場 第1巻 - 第7巻（東大将棋ブックス）』

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