橘 (橘型駆逐艦)

日本海軍駆逐艦「橘」：悲壮な最期と献身の記録

「橘」は、日本海軍の駆逐艦である。横須賀海軍工廠で建造され、橘型（改松型）駆逐艦の1番艦として1944年12月10日に就役した。艦名は、柑橘類の橘に由来し、同名の駆逐艦としては2代目にあたる。

就役後、「橘」は第十一水雷戦隊に編入され、瀬戸内海で訓練を行った。1945年3月15日、同型艦や姉妹艦と共に第五十三駆逐隊を編成。戦艦「大和」を含む艦隊の沖縄出撃作戦への参加が予定されたが、航続距離の短さから外れることとなった。

その後、「橘」は第三十一戦隊に属し、回天攻撃の目標艦として大津島方面で行動した。5月7日には大湊警備府部隊に編入され、大湊への回航を命じられる。関門海峡の掃海作業を経て日本海を航行し、5月21日に大湊に到着。津軽海峡での対潜警戒任務に就いた。

6月11日、「橘」は損傷した海防艦「八丈」の護衛を兼ね、僚艦「柳」と共に大湊を出港し舞鶴へ向かった。その後も津軽海峡の警戒任務に従事し、函館湾を拠点とした。

運命の日は1945年7月14日、午前5時頃に訪れた。第38任務部隊の艦載機約100機による空襲が函館市街を襲った。連絡船や港湾施設が主な目標であったが、「橘」もその攻撃対象となった。「橘」は午前5時40分から対空戦闘を開始。敵機の攻撃を受け、錨を切って緊急出港した。

激しい戦闘の中、「橘」は誘爆を避けるため、甲板上の水雷を投棄。函館湾内の船舶や湾外を航行していた連絡船を護衛するため、あえて湾内に留まり戦闘を続けた。午前6時40分、右舷に敵弾が命中し機関停止、航行不能となる。さらに午前6時50分、艦後部に爆弾が命中、艦体は大きく右に傾斜し、多数の乗員が海に投げ出された。午前6時53分、「橘」は葛登支岬灯台の南東約3海里で沈没した。

沈没の報を受け、「柳」は「ワレ、ゴウ沈ス」の電文を受信した。生存者は漁船によって救助され、茂辺地（現在の北斗市茂辺地）付近へ上陸。負傷者は函館病院や茂辺地の病院で手当を受けた。乗員280名中、156名が戦死したとされる。

「橘」は8月10日に除籍された。函館護国神社には「橘」戦死者の慰霊碑が建立され、その献身的な行動が刻まれている。碑文には、敵機6機撃墜、1機撃破、在泊船舶の被害を最小限に抑えたことが記されている。

「橘」の戦いは、数々の資料や証言によって裏付けられる。その勇猛果敢な戦いぶりは、日本海軍の誇りであり、同時に太平洋戦争末期の悲惨な状況を象徴する出来事であった。本記事では、利用可能な資料を基に可能な限り事実関係を正確に記述するよう努めたが、記述内容に誤りや不足がある可能性があることをご承知おきください。より詳細な情報については、参考文献を参照されたい。

参考文献

石井勉（編著）『アメリカ海軍機動部隊 英和対訳対日戦闘報告/1945』成山堂書店、1988年
片桐大自『聯合艦隊軍艦銘銘伝』光人社、1993年
海軍歴史保存会『日本海軍史 第7巻』第一法規出版、1995年
海防艦顕彰会 編『海防艦戦記』原書房、1982年
木俣滋郎『日本水雷戦史』図書出版社、1986年
外山操『艦長たちの軍艦史』光人社、2005年
歴史群像編集部 編『松型駆逐艦』学習研究社、2003年
アジア歴史資料センター

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