橘良基

橘良基（たちばな の よしもと）は、平安時代前期に活躍した貴族です。参議・橘常主の孫にあたり、摂津守・橘安吉雄を父に持ちます。最終的な官位は従四位下・信濃守でした。

波乱の官吏人生

良基は仁寿3年（853年）に左京少進として官吏の道を歩み始めました。その後、民部少丞を経て、天安年間初頭には大宰府の大宰少監に任じられましたが、これを不服として赴任を拒否したため、文徳天皇の怒りを買い解官されるという挫折を経験します。しかし、清和天皇の時代になると再登用され、貞観元年（859年）には木工少允に任じられました。その後、式部丞を経て、貞観6年（864年）には従五位下・伊予権介に叙任されました。伊予国では、上官が京官を兼任していたため、実質的に良基が受領として国政を担い、その治績は高く評価されました。特に、海賊が頻発していた伊予国において、朝廷の命を受けて追捕を督励するなど、治安維持にも尽力しました。貞観11年（869年）には従五位上・常陸介に昇進しますが、任期後もその手腕を惜しまれ、後任の国司が彼を手放そうとしなかったという逸話が残っています。貞観16年（874年）には越前守に抜擢され、地方官としての実績が認められました。

陽成朝においても、良基は地方官を歴任し、元慶元年（877年）には正五位下・丹波守、元慶6年（882年）には従四位下、元慶8年（884年）には信濃守に叙任されました。国司として赴任した先々で、良基は名地方官として知られた紀今守に倣い、農耕を奨励し、租税や課役の負担を軽減しました。その結果、民は仕事に励み、生活は豊かになったと伝えられています。しかし、丹波守在任中には、近衛府の官人との間でトラブルを起こし、関係者が処分されるという事件も発生しました。また、信濃守在任中には、放火事件の犯人を独断で赦免したことが問題となり、京に召還され刑部省で取り調べを受けることになりました。結局罪状は決定しないまま、仁和3年（887年）に63歳で亡くなりました。その際、家には財産が全くなかったため、中納言・在原行平からの贈物によって葬儀を執り行ったとされています。

清廉な人柄と剛直な性格

幼少の頃から学問に励み、若い頃から品性に優れていた良基は、清廉潔白な人柄で知られていました。質素な生活を送り、5ヶ国の受領を務めたにもかかわらず、任期を終えて帰京する際には全く蓄財がなかったといいます。子孫への教育においても清廉さを重視し、六男である橘在公が治国の道を問うた際には「百の術があるとしても、清廉であることに勝るものはない」と答えたという逸話が残っています。

一方で、良基は非常に剛直な性格で、何事も自分自身で解決しようとする傾向があり、保身のために一歩引くということが苦手でした。不快に思うことがあれば、同僚や部下の前でも感情を隠すことなく露わにし、恨みが募ると家人を辱めるようなこともあったとされています。この性格が、官吏としての成功と同時に、周囲との軋轢を生む原因ともなっていたと言えるでしょう。

詳細な官歴

以下に、良基の官歴を『六国史』に基づきまとめます。

時期不詳：正六位上
仁寿3年（853年）：左京少進
時期不詳：民部少丞
天安年間初頭：大宰少監
貞観元年（859年）：木工少允、式部少丞
時期不詳：式部大丞
貞観6年（864年）：従五位下、伊予権介
貞観11年（869年）：従五位上、常陸介
貞観16年（874年）：越前守
元慶元年（877年）：正五位下、丹波守
元慶6年（882年）：従四位下
元慶8年（884年）：信濃守
仁和3年（887年）：卒去（従四位下行信濃守）

系譜

父：橘安吉雄
母：不詳

生母不詳の子女
五男：橘澄清（861-925）
六男：橘在公
女子：藤原保蔭室
女子：源唱室

脚注

* 参考文献：武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 下巻』戎光祥出版、2009年


橘良基は、その清廉潔白な人柄と、地方官としての優れた手腕で、後世に名を残した人物と言えるでしょう。

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