歌川芳盛

歌川芳盛（うたがわ よしもり）は、天保元年（1830年）に生まれ、明治18年（1885年）に没した、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した浮世絵師です。歌川国芳の門人であり、その画風を継承しつつ、独自の表現を追求しました。本名は三木作蔵、または田口作蔵とされ、画号として一光斎、光斎、酒盛（さかもり）、さくら坊、桜ん坊などを用いています。

生涯と画業

芳盛は幼少の頃から国芳に師事し、武者絵、時局絵、花鳥画など幅広いジャンルの作品を手がけました。特に、当時の社会情勢を風刺した合戦絵を得意とし、その鋭い視点とユーモラスな表現は、多くの人々を魅了しました。また、嘉永年間には草双紙の挿絵も担当し、多岐にわたる才能を発揮しました。

万延から文久年間（1860年 - 1864年）にかけては、開港後の横浜を題材にした「横浜絵」を数多く制作しました。「ゑぎりす人の図」や「五ヶ国」、「港崎横浜一覧」などは、当時の異国情緒を伝える貴重な資料となっています。また、江戸市中を観光する外国人の姿を描いた作品も多く、「東都名所」シリーズなどに見ることができます。これらの作品は、芳盛ならではの視点と表現で、当時の人々の関心を集めました。

さらに、合作として「御上洛東海道」や「末広五十三次」にも参加し、東海道の風景や人々の様子を鮮やかに描きました。中年期には服部波山、夜鶴庵、河鍋暁斎らと交流を深め、三木光斎と号して南画にも挑戦するなど、画風の幅を広げました。

元治元年（1864年）に制作された大判錦絵3枚続「昔ばなし舌切雀」では、蛤御門の変を舌切雀の物語に託して描いており、当時の社会情勢を風刺した作品として注目されています。長州勢を妖怪に例えて描くなど、芳盛の鋭い風刺精神がうかがえます。

絵本の分野では、嘉永年間の『義士銘々伝』や『膝栗毛面白双紙』などが知られています。

明治時代に入ると、一時期は内務省に官吏として勤務しましたが、後に辞職し、横浜に移り住みます。その後は、横浜絵や輸出向けの花鳥画を制作し、晩年まで精力的に活動を続けました。

明治18年（1885年）に56歳で亡くなり、墓所は横浜窪山の共同墓地にあります。

作品の特徴

芳盛の作品は、師である国芳の画風を継承しつつも、独自の表現が随所に見られます。特に、時局を風刺した作品には、鋭い観察眼とユーモラスな表現が際立っており、当時の社会情勢を知る上で貴重な資料となっています。また、横浜絵に見られる異国情緒あふれる描写や、花鳥画における繊細な筆致は、芳盛の卓越した画力を物語っています。

主な作品

「昔ばなし舌切雀」：大判錦絵3枚続。蛤御門の変を風刺的に描いた作品。
「御上洛東海道」：東海道の風景を描いた合作。
「末広五十三次」：東海道五十三次を題材にした合作。
「源義家朝臣奥州征罸之図」：奥州征伐の様子を描いた大判3枚続の錦絵。
「書画五拾三駅 武蔵 神奈川」：東海道五十三次の宿場を描いた大判錦絵。
「東地名」：江戸の名所を描いた横大判錦絵揃物。
「江戸八景」：江戸の風景を描いた横大判錦絵揃物。
「えぎりす人の図」：開港後の横浜に滞在するイギリス人を描いた錦絵。
「港崎横浜一覧」：横浜港の風景を描いた錦絵2枚続。
「鳥獣図会」：様々な鳥や獣を描いた錦絵。
「五ヶ国之内フランス」：フランスの異国情緒を描いた大判錦絵。
「江戸自慢日本橋」：日本橋の賑わいを描いた大判錦絵。
「飛鳥山花見図」：飛鳥山での花見の様子を、外国人と役者を交えて描いた錦絵2枚続。
「異国人写真鏡之図　ヲロシヤ」：ロシア人を描いた大判錦絵。
「東都名所」：江戸の名所を描いた大判錦絵揃物。
「東海道」：東海道の宿場を描いた大判錦絵揃物。
「摂州須磨浦真景」：須磨浦の風景を描いた大判錦絵3枚続。
「本能寺合戦之図」：本能寺の変を描いた大判錦絵3枚続。
「東京高輪之風景」：高輪の風景を描いた大判錦絵3枚続。
「上野東照宮御祭典参詣群集之図」：上野東照宮の祭典の様子を描いた大判錦絵3枚続。
* 「鯉の滝登り」：鯉の滝登りを描いた大判縦2枚続。

後世への影響

歌川芳盛の作品は、江戸時代末期から明治時代にかけての社会や風俗を生き生きと伝え、当時の人々の暮らしや文化を知る上で貴重な資料となっています。また、その卓越した画力と独自の表現は、後世の浮世絵師たちに大きな影響を与えました。門下には二代目歌川芳盛、歌川小芳盛などがいます。

参考文献として、『原色浮世絵大百科事典』（日本浮世絵協会編、大修館書店）、『浮世絵の見方事典』（吉田漱著、北辰堂）、『カラー版　浮世絵』（大久保純一著、岩波書店）などがあげられます。

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