正明中学校・高等学校

正明中学校・高等学校

正明中学校・高等学校（せいめいちゅうがっこう・こうとうがっこう）は、第二次世界大戦中に設立され、戦後間もなく廃校となった、かつて埼玉県所沢市に所在した私立の中学校および高等学校です。

この学校は、社会教育団体である修養団を母体として創設されました。当時の修養団団長であった平沼騏一郎は、来るべき大東亜共栄圏において中核を担うべき人材を育成することを目指し、その教育機関として本校の設立を主導しました。その思想的背景には、平沼が一時結成していた国本社の一部に通じる流れがあったとも言われています。校名は、儒教の教えである「正誼明道（せいぎめいどう）」、すなわち「正しき道理によって事を裁し、人としての道徳を明らかにする」という言葉に由来しています。

学校経営には、修養団の創設者である蓮沼門三が理事として、また皇道主義者として知られる中野八十八が校長として名を連ねました。彼らの指導のもと、学校は「精神、肉体、道義」の三側面すべてにおいて健全な人物、すなわち「三健完了」の健児を育成することを教育理念として掲げ、実践しました。

学校の設立は、昭和19年（1944年）4月、修養団が東京府北多摩郡東村山村と埼玉県所沢町にまたがって造成した「皇民道場」の敷地内に、旧制正明中学校として開校したことに始まります。これに先立つ昭和15年（1940年）には皇民道場の造成が始まり、昭和16年（1941年）11月には、旧青山御所の一部であった「共承閣」という建物が移築され、また日東紡績からは「揚清館」が寄贈されるなど、教育環境の整備が進められていました。

正明中学校・高等学校は、村山貯水池（多摩湖）のほとりに校舎と学生寮を構え、全寮制教育を実施していた点が大きな特徴でした。

しかし、第二次世界大戦の終結後、学校は厳しい状況に直面します。昭和22年（1947年）には、母体である修養団が「皇民道場」から名称変更した「公民道場」の敷地を西武鉄道に売却することを決定しました。さらに、戦後GHQ（連合国軍最高司令官総司令部）による公職追放令の影響を受け、校長であった中野八十八が追放されるなど、学校の運営体制が揺らぎます。これに加え、修養団自体の財政が悪化していたこと、そして学校の立地条件が決して良いとはいえなかったことなどが複合的に重なり、学校経営は深刻な苦境に陥りました。

追放された中野校長の後を受け、新たな責任者となったのは、平沼騏一郎の養子であった平沼恭四郎でした。彼は学校の存続を図るため、他の教育機関との合併という道を選択します。そして昭和25年（1950年）、正明中学校・高等学校は学校法人紅陵大学（後の学校法人拓殖大学）に吸収される形で合併しました。これに伴い、紅陵大学の附属学校であった紅陵高等学校（現在の拓殖大学第一高等学校）と統合され、学校名も「紅陵大学正明中学校・高等学校」へと変更されます。

その後、大学の名称変更に伴い、昭和27年（1952年）には「拓殖大学正明中学校・高等学校」と改称されました。この時、中学校の生徒募集が停止されます。さらに昭和35年（1960年）には、「拓殖大学第一中学校・高等学校」と再度名称が変更され、中学校は募集停止のまま休校状態が続き、最終的に昭和54年（1979年）に正式に廃止されました。

合併と経営主体の変更により、村山貯水池畔にあった旧校地は西武鉄道に売却されました。現在、その跡地には西武園ゆうえんちや西武園競輪場などの施設が立っています。かつて移築された建物である共承閣は、少なくとも1987年から1990年頃までは現存していた記録がありますが、揚清館は昭和59年（1984年）に取り壊されています。

正明中学校・高等学校は、戦時下の特殊な背景のもとに設立され、理想を掲げた教育を行いましたが、戦後の激動期を乗り越えることができず、その歴史に幕を下ろしました。しかし、その教育理念や存在は、当時の社会状況を知る上で貴重な事例となっています。

もう一度検索