修養団

公益財団法人修養団

公益財団法人修養団（こうえきざいだんほうじんしゅうようだん、略称SYD）は、日本の公益財団法人です。かつては文部科学省の管轄でしたが、公益法人認定法の制定に伴い、現在は内閣府の認定を受けています。

概要

修養団は、1906年（明治39年）2月11日に蓮沼門三によって創設された社会教育団体です。その起源は、蓮沼が東京府師範学校（現在の東京学芸大学）在学中に始めた「美化運動」に遡ります。「総親和」「総努力」をスローガンに、「白色倫理運動」を展開し、「日本精神」の普及に努めました。昭和初期には、国家主義者からの期待も集め、皇国史観に基づく歴史年表を発行するなど、国民精神総動員運動を民間側から推進しました。

修養団は、蓮沼の著書『道のひかり』を信条とし、日本主義に基づく倫理の確立を目指しています。機関誌として『向上』を発行しています。現代においても、子ども自然体験キャンプや海外の恵まれない子供たちとの交流活動に加え、家庭教育や社会人教育などの事業を展開しています。

1923年（大正12年）に財団法人化し、2011年（平成23年）4月1日に公益財団法人として認定されました。初代団長には田尻稲次郎、2代目団長には平沼騏一郎、初代後援会長には渋沢栄一など、著名な人物が名を連ねています。その後も、大槻文平が会長、小山五郎、三田勝茂、日向方斉が副会長を務めました。

太平洋戦争以前から、住友金属や日立製作所などの大手企業が修養団の教えを広め、政府や産業界からも大きな期待が寄せられていました。

歴史

起源

修養団の起源は、蓮沼が青山師範学校（現・東京学芸大学）時代に始めた「美化運動」です。この「美化運動」を母体として、「風紀革正会」が設立されました。学生の同好会的な運動であった「風紀革正会」が発展し、社会教育運動のための団体として1906年（明治39年）2月11日に修養団が旗揚げされました。この時、蓮沼は三大主義を起草しました。

また、修養団の団員になるためには、以下の二つの誓願が求められました。

1. 忠君愛国を誓うこと。
2. 自己の修養を怠らないこと。

入団時には、「帝国風紀革正の同志たることを誓約す」という一文への署名が求められました。

大正時代の入団案内には、「修養団は、大日本帝国を健全にする基礎である」という一文が見られます。これは規約の第1条に記載されていました。

修養団旗揚げ時、蓮沼は次のような設立趣意書を読み上げました。「修養団は、国民道徳の振興、社会の弊害是正を目的とする。」

2代目団長であった平沼騏一郎は、「総親和」「総努力」「大愛の精神」を自身の内閣のスローガンとしました。

実業界との接触

修養団は、当初は学校を中心とした精神運動でしたが、1909年（明治42年）春に蓮沼が渋沢栄一を訪問したことで実業界との関係を深めました。渋沢は紹介状を持たない人物とは会おうとしませんでしたが、蓮沼は10メートルを超える長文の手紙を書いて面会を求め、資金援助を得ることに成功しました。渋沢は、蓮沼の「精神の修養」を重視する姿勢を評価し、後援しました。渋沢の支援以降、修養団は政財界や教育界の有力者からの後援を得られるようになりました。

援助した主な人物には、森村市左衛門、手島精一、新渡戸稲造、岡田良平、井上友一、床次竹二郎などがいます。財閥グループの中では、小倉正恒が熱心であったため、住友財閥と修養団の関係が深く、住友財閥が修養団の受け入れを決めたのは、小倉が本店理事であった1919年（大正8年）12月のことでした。小倉は、激化する労働争議に対抗するため、住友製鋼所、住友伸銅所（後の住友金属工業）、住友電線へと、修養団支部を拡大していきました。小倉以外では、東芝の大田黒重五郎、秩父セメントの諸井恒平も熱心でした。修養団は、八幡製鉄や東京電気会社（現・東芝）でも導入されました。

規模拡大

修養団創立10周年の1916年（大正5年）には団員数3,000人でしたが、1921年（大正10年）には支部175、団員数66,718人にまで拡大しました。支部は、師範学校や各地の大学のほか、工事事業場や市町村にも拡大し、地方連合会の設立に至りました。1923年（大正12年）に財団法人化し、1924年（大正13年）に初代団長の田尻稲次郎が死去、後任として平沼騏一郎が第2代団長に就任すると、修養団は大きな発展を遂げました。

1926年（大正15年）には、代々木にある現在の修養団の土地が宮内省御領地から無償貸与され、修養団会館が建設されました。同時期に、蓮沼の盟友である「青年団運動の父」田沢義鋪の尽力により、明治神宮外苑に日本青年館が建設されました。

修養団の活動が労働者・企業レベルに広がった要因の一つには、田沢義鋪の協力があります。修養団の企業への浸透は、協調会の修養団式講習会を通じて始まりました。協調会は、1919年末に「官民一致の民間機関」として設立された労働問題を専門に扱う団体です。官僚側からは、床次竹二郎内務大臣（当時）が、財界からは渋沢栄一や日本工業倶楽部の人間が中心になって設立されました。協調会は多岐にわたる事業を展開しましたが、特に労働争議の調停と修養主義に基づく労務者講習会の実施が大きな成果を上げました。協調会の実態は修養団そのものであり、修養団が講習を行いました。講習の受講者の多くが修養団に入団し、団員たちが企業内に修養団の活動を広めました。

昭和初期

昭和初期に入り、国家社会主義や革新右翼、観念右翼が台頭し始めると、国家主義者は修養団に期待を寄せました。修養団は、「日本が戦時色を強めれば強めるほど、軍部からも産業界からも、植民地統治の当局者からも大きな期待がかけられた団体」となりました。修養団は、国家に対し様々な協力を惜しみませんでした。例えば、1937年（昭和12年）8月24日の閣議決定に始まる国民精神総動員運動を、民間の側から推進しました。他にも、1934年（昭和9年）9月に東京府委託満州開拓団移民訓練所、満州国産業開発先遣隊員短期訓練事業、知識階級百日訓練道場などの社会事業を実施しました。訓練所の事業では、80人の花嫁を含む約250人を満州に送りました。

太平洋戦争中、修養団は戦時体制を支える団体として約600万人の団員を抱えていました（太平洋戦争敗戦時の累計団員数は620万人）。

敗戦後

日本の敗戦後、多くの教化団体はGHQによって解散させられましたが、修養団はGHQから存続を認められました。解散を免れたのは、修養団と報徳会のみでした。蓮沼は「敗戦の道義的責任を痛感して」主幹を一時辞任しましたが、1951年（昭和26年）に復帰しました。敗戦直後の1945年（昭和20年）11月15日には、蓮沼が昭和天皇に社会教育について進講し、10月から12月にかけて、国民道義昂揚協議会、家庭教育振興協議会、貯蓄推進協議会、家庭生活科学化協議会、幹部勤労者啓発会、勤労者啓発会などを各地で開催するなど、活動は活発でした。太平洋戦争後、修養団の活動は、戦前のように広く一般人に対して行われることは少なくなり、企業に対する活動が中心となりました。また、企業だけでなく、国・地方公共団体が行う社会教育運動にも活動を広げました。戦後の修養団を物心両面で支えたのは、企業経営者たちでした。修養団は、1974年4月に結成された「日本を守る会」に結成当初から参加しています。

社会教育活動

日本の社会教育活動において、修養団から広がったものは多くあります。修養団が全国各地で実施した野外研修の朝礼で行われた体操は「国民体操」（松元稲穂考案）と呼ばれ、この国民体操をベースに作られたのがNHKラジオ体操です。ラジオ体操のルーツを辿ると、修養団にたどり着きます。

1913年（大正2年）、蓮沼はイギリス生まれの少年団活動であるボーイスカウト運動の概況を聞き、修養団でそれができないかと考えました。修養団幹事の小柴博に持ちかけ、小柴は東京少年団を組織しました。これが発展し東京連合少年団となり、大正時代後期には、東京連合少年団が母体となって少年団日本連盟（日本ボーイスカウト連盟の前身）が結成されました。

みそぎ研修

修養団は、伊勢市に神都国民道場を持っており、日本の企業が新入社員に対して愛社心を養うための「みそぎ研修」を皇大神宮前の五十鈴川で提供しています。この研修は、大手企業の新入社員研修として知られています。1982年4月20日付の毎日新聞の記事によると、水温は非常に冷たく、その冷たさは痛みを伴うほどだと報じられています。また、タイム誌のアラン・タンズマン記者のレポートによると、水の冷たさは寒さを通り越して痛いという感覚だったとされています。研修では、男性は鉢巻を巻いて、夜か朝に明治天皇の和歌を唱和し、1分間五十鈴川に肩まで浸かります。女性の場合は薄物をまとい、男性と同様に鉢巻きをして行われます。修養団ではこれを「水行」と呼んでおり、夏冬に関係なく提供される研修です。鉢巻きには「愛汗」と書かれています。日立グループ、住友金属、宇部興産、三菱金属、トヨタ車体、東芝、三菱電機、松下電器産業などが継続的にこのような社員研修を行っています。

著名人

松下幸之助は、修養団の精神に感銘を受け、1976年（昭和51年）から1989年（平成元年）まで顧問を務めました。安岡正篤も同様に蓮沼門三の考えに共感し、1970年（昭和45年）から1984年（昭和59年）まで顧問を務めました。第2代団長の平沼騏一郎は、在任中に枢密院議長に就任し、その後、内閣総理大臣に就任（1939年（昭和14年））すると、自身の国政運営の指針として修養団の精神である「総親和、総努力」を掲げました。その他、土光敏夫、安岡正篤なども修養団を支援しました。

創立100周年記念式典

2005年（平成17年）11月13日（日）には、明仁天皇・皇后美智子（いずれも当時）の行幸啓を受けて、明治神宮会館で創立100周年記念式典が開催されました。式典での『天皇陛下のおことば』は、宮内庁のホームページに掲載されています。また、式典に先立つ同年11月1日（火）には、皇居で財団法人修養団理事長から天皇・皇后に「財団法人修養団創立100周年記念式典について」の説明がなされました。

理事長

※在任期間に断続があるのは、戦争激化・敗戦占領等の社会情勢による。
※1968年（昭和43年）に、それまでの団長制から理事長制に移行した。
※財団としては、理事長制と共に主幹制を併用している。現在の主幹は蓮沼力太郎。

後援会

1925年（大正14年）頃、第2代団長の平沼騏一郎が修養団後援会の設立を発起し、同年5月30日に丸の内の日本工業倶楽部において設立総会が開催されました。後援会長の歴代は以下の通りです。現在は、個人会員とともに企業会員の制度があります。

※在任期間に断続があるのは、戦争激化等の社会情勢による。（後援会のため、法人たる公益財団法人修養団とは別組織）

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