武井龍三

武井龍三：時代を駆け抜けた映画人

武井龍三（たけい りゅうぞう、1905年5月8日 - 1964年11月）は、俳優、映画プロデューサー、殺陣師として多岐にわたり活躍した人物です。本名を竹熊龍藏といい、マキノ・プロダクションで高木新平と並ぶ「鳥人スター」として名を馳せました。その後は、市川右太衛門プロダクションや松竹下加茂撮影所などで、個性的な脇役として存在感を示しました。

生い立ちと初期のキャリア

1905年（明治38年）5月8日、武井龍三は熊本県熊本市新馬借町（現在の熊本市中央区新町3丁目）に生まれました。地元の尋常高等小学校を卒業後、旧制熊本専門学校（現在の熊本大学）に進学しますが、中途退学しています。

1924年（大正13年）、19歳の時にマキノ映画等持院撮影所に入社し、映画界に足を踏み入れました。翌1925年（大正14年）には、牧野省三が東亜キネマから独立して設立したマキノ・プロダクション御室撮影所へ移籍。同年9月4日公開の金森萬象監督作品『奇傑鬼鹿毛 第一篇』で早くも主役に抜擢され、高木新平に次ぐ人気スターとしての地位を確立しました。

マキノ・プロダクションでの活躍

『奇傑鬼鹿毛』の撮影中、武井は京都府宮津市の智恩寺山門から飛び降りるシーンに挑戦しましたが、落下地点のキャンバスがずれ、地面に激突して気絶するというアクシデントに見舞われました。しかし、この作品を機に、同年11月公開の『剣かたばみ』をはじめ、数々の主演作品に出演し、その名を広めていきました。

独立と苦難

1928年（昭和3年）5月、武井は嵐長三郎（後の嵐寛寿郎）や片岡千恵蔵らと共に、日本活動常設館館主聯盟映画配給社（日本映画プロダクション連盟）の創立に参加するため、マキノ・プロダクションを退社しました。この聯盟は、スター・プロダクションによる自由製作・自由配給を目指したものでしたが、短期間で解散。その後、武井は片岡千恵蔵プロダクションに所属し、数々の作品に出演しました。

1929年（昭和4年）2月、武井は独立し、双ヶ丘撮影所内に武井龍三プロダクションを設立しました。自ら製作を手掛けた『金剛呪文 前篇』などを発表しましたが、経営はうまくいかず、失敗に終わりました。

脇役としての再出発

1930年（昭和5年）6月、武井は市川右太衛門プロダクションに移籍し、脇役としての活動を再開しました。1931年（昭和6年）には『血煙一番槍』で主演を務めたものの、以降は脇役としての出演が多くなりました。1936年（昭和11年）1月、右太プロの解散後、松竹太秦撮影所を経て松竹下加茂撮影所に移籍。1938年（昭和13年）公開の『奴銀平』が確認できる最後の出演作となりました。

戦後の活動と晩年

戦後、武井はえくらん社に所属し、かつての同僚であった柳さく子を映画界に復帰させたことが報じられています。また、東映京都撮影所で殺陣師としても活動していた時期もあったようです。1963年（昭和38年）には、映画業界への長年の貢献が認められ、第8回「映画の日」中央大会で永年勤続功労章を受章しました。

1964年（昭和39年）11月、武井龍三は59歳で死去しました。彼の墓は、かつて自身が手配して納骨した柳さく子の墓と背中合わせに立っていると言われています。

武井龍三は、華々しい主演スターから、個性的な脇役、そして映画プロデューサー、殺陣師として、映画界の様々な側面で才能を発揮しました。彼の足跡は、日本映画史に確かに刻まれています。

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