市川右太衛門プロダクション

市川右太衛門プロダクション：時代を彩ったスタープロダクション

市川右太衛門プロダクション（通称：右太プロ）は、1927年5月から1936年まで存在した、奈良県を拠点とする映画会社でした。当時、絶大な人気を誇った若手俳優、市川右太衛門が自らの理想を追求するために設立したスタープロダクションとして知られています。

設立の背景とあやめ池撮影所

右太衛門は、映画界の先駆者である牧野省三が率いるマキノ・プロダクションの看板俳優でしたが、1927年2月に同社を退社。同年4月、満を持して「市川右太衛門プロダクション」を設立しました。

右太プロの設立には、笹川良一という人物が深く関わっています。当時、大阪府豊川村の村議会議員であり、芸能興行会社を経営していた笹川は、大阪電気軌道（現在の近畿日本鉄道）が前年に開園した「あやめ池遊園地」の敷地を右太衛門に斡旋しました。これにより、右太プロは遊園地内に撮影所を建設することが可能になったのです。この撮影所は「あやめ池撮影所」と呼ばれ、9年間にわたり数々の作品が生み出されました。

製作体制と作品

右太プロの設立第1作は、1927年4月29日に公開された『侠骨漢 笑ふな金平 前篇』でした。監督には帝国キネマ芦屋撮影所から押本七之助を、脚本には曽我正史（振津嵐峡）を迎え、撮影は東亜キネマの下村健二が担当。右太衛門自身が主演を務めました。当初、右太プロは東亜キネマと配給提携を結んでいましたが、1928年5月には松竹キネマへと変更しました。

1930年からは、「市川右太衛門プロダクション第二部」を創設し、新たな試みに挑戦します。従来の脇役俳優や、他社で主役を張っていた俳優を起用し、右太衛門自身が出演しない作品も製作しました。これにより、右太プロは作品の幅を広げ、多くの才能を輩出することに貢献しました。

松竹への吸収とその後

右太プロは、1936年2月7日公開の中川信夫監督作品『悪太郎獅子』を最後に、松竹キネマに吸収合併される形で幕を閉じました。右太衛門自身は松竹太秦撮影所に入社し、俳優としての活動を続けました。あやめ池撮影所は閉鎖されましたが、同年5月には右太衛門の実兄である山口天龍が同撮影所を引き継ぎ、「全勝キネマ」を設立。右太プロ第二部の俳優たちを残留させ、サイレント映画の量産を開始しました。

右太プロの意義

市川右太衛門プロダクションは、短い期間ながらも、日本映画史に大きな足跡を残しました。右太衛門というスター俳優の存在を中心に、才能あるスタッフが集結し、数々の名作を世に送り出しました。また、第二部を設立することで、若手俳優の育成にも貢献し、その後の映画界を担う人材を輩出しました。あやめ池撮影所は閉鎖されましたが、その跡地は近畿大学附属小学校となり、現在もその名残をとどめています。

関連事項

マキノ・プロダクション （牧野省三）
東亜キネマ
河合映画製作社
松竹キネマ
全勝キネマ （山口天龍）
近鉄あやめ池遊園地 （2004年閉園）
近畿大学附属小学校 （2008年移転）
菖蒲池駅

もう一度検索