武州鉄道汚職事件

武州鉄道汚職事件とは

1960年代に発覚した武州鉄道汚職事件は、東京都三鷹市と埼玉県秩父市を結ぶ鉄道敷設免許を巡り、不透明な金銭授受があったとされる疑獄事件です。この事件は、当時の政財界を揺るがす大きな汚職事件へと発展しました。

武州鉄道計画の概要

計画された武州鉄道は、戦後の混乱期に台頭した実業家、滝嶋総一郎が中心となって進められました。滝嶋は、吉祥寺名店会館の経営者でもあり、沿線自治体の首長や財界の大物たちに働きかけ、1958年12月に発起人総会を開催、翌1959年1月には鉄道免許を申請しました。この計画は、吉祥寺を起点とし、三鷹、小金井、青梅などを経て秩父に至る総延長60.3kmの路線を想定していました。

事件の発覚と背景

武州鉄道の計画が進む一方で、西武鉄道も秩父方面への路線（後の西武秩父線）を申請しており、両社の間で路線競合が発生しました。武州鉄道の発起人たちは、鉄道経営の経験が乏しく、モノレール案も出るなど計画は不安定でした。また、山間部を通過するにも関わらず、建設費が過少に見積もられていたことも問題視されました。さらに、有力な支援者であった埼玉銀行が計画から離脱したことで、滝嶋は発起人総代の座を退きました。

その後、1961年2月に西武鉄道に西武秩父線の免許が交付されたことで、武州鉄道の計画は頓挫したかに見えました。しかし、同年7月、池田勇人内閣の運輸大臣であった木暮武太夫によって、武州鉄道にも免許が交付されました。通常、鉄道免許の審査には数年を要し、ずさんな計画であった武州鉄道への免許交付は異例の速さでした。この背景には、滝嶋が当時の運輸大臣であった楢橋渡に対し、総額2,450万円もの賄賂を贈っていたという事実がありました。この事実が発覚したことにより、東京地検特捜部が捜査を開始し、事件が明るみに出ました。

事件のその後

捜査の結果、滝嶋、楢橋を含む14人が起訴されました。事件は、武州鉄道免許に関する贈収賄、関連会社である白雲観光の特別背任、埼玉銀行関連の贈収賄の3つに分けられましたが、白雲観光と埼玉銀行に関する事件では、無罪判決が下されました。しかし、武州鉄道免許に関する贈収賄については、滝嶋と楢橋に有罪判決が下されました。この事件は、当時の政界、財界に大きな衝撃を与えました。

武州鉄道はその後、代表者を変更して会社が設立されましたが、資金調達に失敗し、結局建設には至りませんでした。免許は1975年に失効し、計画は未成線として終わりました。一方、西武鉄道は1969年に西武秩父線を開通させ、東京都心から秩父地方への鉄道アクセスを確立しました。

脚注

この事件は、その背景にある政界、財界の癒着構造を明らかにした点で、戦後の汚職事件史に残る事件となりました。


参考文献
事件・犯罪研究会 村野薫「明治・大正・昭和・平成　事件・犯罪大事典」東京法経学院出版、2002年
森口誠之「鉄道未成線を歩く＜私鉄編＞」JTBパブリッシング、2002年
田中二郎、佐藤功、野村二郎「戦後政治裁判史録3」第一法規出版、1980年

関連項目

五私鉄疑獄事件

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