武田節

武田節（たけだぶし）

「武田節」は、1961年（昭和36年）に誕生した民謡調の歌曲です。作詞は米山愛紫（よねやまあいし）氏、作曲は明本京静（あけもときょうせい）氏が手がけました。本来は、民謡の旋律を取り入れた流行歌、あるいは新民謡と呼ばれるジャンルに属する楽曲です。特に、初代の歌唱者である三橋美智也（みはしみちや）氏によるレコードは、空前のヒットとなり、ミリオンセラーを記録するほどの人気を博しました。

この歌は、山梨県において県の民謡として広く認識されることが多く、愛唱歌として定着しています。これは、山梨県に古くから伝わる伝統的な民謡が比較的少ないという背景も関係しています。その普及には、作曲者である明本京静氏が理事長を務めていた日本文化協会が、1961年から彼が亡くなる前年の1971年（昭和46年）までの10年間、毎月20日に日比谷公会堂で開催していた「みんなでうたう音楽会」で繰り返し歌唱指導が行われたことが大きく貢献したとされています。この音楽会を通じて、歌が多くの人々に広まり、現在でもカラオケで歌われる定番曲の一つとなっています。

「武田節」は、歌として親しまれるだけでなく、日本舞踊の演目としてもよく取り上げられてきました。その勇壮な旋律と歌詞は、舞踊の題材として非常に適していたからです。特に、山梨県をはじめ、戦国時代の名将・武田信玄公ゆかりの地である長野県東信地方（佐久地域や上田地域）の小学校・中学校では、1990年代頃まで運動会などでこの歌に合わせて子供たちが舞を披露する光景が見られ、地域の文化として根付いていました。

歌詞の内容は、武田信玄公とその家臣たちが戦場へと出陣する際の力強く勇ましい様子を描いています。曲の構成においては、歌の間に武田信玄の軍旗にも記された「風林火山」（孫子の兵法の一部を引用した言葉で、「疾（はや）きこと風の如く、徐（しず）かなること林の如く、侵（おか）し掠（かす）めること火の如く、動かざること山の如し」を指す）の文句を読み上げる詩吟が挿入される点が特徴的です。これにより、楽曲全体に一層の風格と戦国時代の雰囲気が加わっています。

この楽曲は、音楽という枠を超えて、様々な場面で利用されています。かつて、特急「かいじ」号の定期運用に183系や189系電車が使用されていた時代には、甲府駅に列車が到着または出発する際の車内放送のチャイムとして、「武田節」のメロディが使用されていました。また、比較的最近では、2016年（平成28年）2月10日より、JR中央本線の石和温泉駅において、列車が接近する際に流れる発車メロディとして採用されています。石和温泉駅は温泉地として多くの観光客が訪れる玄関口であり、地域の代表的な歌を用いることで、訪れる人々に山梨らしさを感じてもらうという狙いがあると考えられます。

さらに、教育機関においてもこの歌は活用されており、都留文科大学の応援歌の一つとしても指定されています。このように、「武田節」は、歌唱、舞踊、公共交通機関のチャイムやメロディ、そして応援歌として、多様な形で現代に至るまで多くの人々に親しまれ続けている楽曲です。

現在でも多くの歌手によってカバーされており、例えば福田こうへい氏のアルバム『魂(こころ)昭和の歌人たちを追いかけて…』（2017年）、石原詢子氏のアルバム『詢風 ～吟詠の世界～』（2018年）、そして原唱者である三橋美智也氏の没後に編纂されたアルバム『究極盤 三橋美智也 ～スーパーベスト～』（2018年）などにも収録されており、その息の長い人気を物語っています。

総じて、「武田節」は、特定の地域色を持ちながらも、その勇壮な旋律と歴史的なテーマ性によって、全国的にも認知され、時代を超えて歌い継がれる文化的な資産と言えるでしょう。

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