武田麟太郎

武田麟太郎

武田麟太郎（たけだ りんたろう、1904年5月9日 - 1946年3月31日）は、日本の小説家。初期はプロレタリア文学の旗手として注目を集めましたが、後に市井の人々を描いた作品で独自の境地を開きました。代表作には『暴力』『日本三文オペラ』『市井事』などがあります。

生涯

生い立ち

1904年（明治37年）5月9日、大阪市南区（現在の浪速区）の貧民街で生まれました。父は警察官で、後に弁護士を目指した人物です。幼少期は貧しいながらも、成績優秀で、小学校では級長を務めるなど、リーダーシップを発揮していました。

中学時代から文学への傾倒

大阪府立今宮中学校に進学した武田は、文学に興味を持ち始めます。同級生の影響で島田清次郎や徳冨蘆花などの作品を読み、また母が愛読していた尾崎紅葉の『金色夜叉』などに触れ、文学への情熱を深めていきました。また、この頃には探偵小説にも親しんでいました。

1920年（大正9年）、母の急死をきっかけに小説家になることを決意します。その後、猩紅熱で寝込むも、無事に中学校を卒業。京都の第三高等学校に進学します。

三高時代

第三高等学校では、梶井基次郎と出会い、親交を深めます。梶井は武田にとって大きな影響を与えた人物の一人です。また、同人誌『真昼』を発行するなど、創作活動も活発に行いました。この頃から、永井荷風や井原西鶴といった作家に傾倒していきます。

帝大時代からプロレタリア文学へ

1926年（大正15年）、東京帝国大学文学部仏文科に進学。しかし、大学生活には馴染めず、浅草や場末で遊ぶようになります。次第に労働運動に共感を覚え、大学を中退。1929年（昭和4年）には『文藝春秋』に発表した『暴力』が発禁処分となるも、その表現力は川端康成に評価され、プロレタリア作家としての地位を確立しました。

市井ものへの転換

プロレタリア文学への弾圧が強まる中、武田は作風を大きく転換させます。井原西鶴の浮世草子の影響を受け、庶民の生活を描いた「市井事もの」と呼ばれる作品群を執筆。独特のリアリズムを追求し、新たな境地を開拓しました。

戦中・戦後

太平洋戦争中は陸軍報道班員としてジャワ島に滞在。戦後は疎開生活を余儀なくされ、戦後の虚無感や敗戦の衝撃を作品に反映させました。

戦後、武田は川端康成と協力し、徳田秋声の作品集刊行に尽力しますが、実現には至りませんでした。

急逝

1946年（昭和21年）3月、連日の執筆活動と飲酒が祟り、脳炎のため急逝。享年41歳でした。死因については、当時出回っていた粗悪な密造酒に含まれていたメチルアルコールの影響とする説もあります。

主な作品

習作

牛
銅貨
老人

小説

暴力
日本三文オペラ
市井事
井原西鶴
銀座八丁
一の酉
田舎者歩く
ひとで

評論・随筆

文芸時評

翻訳

『貧農組合 エフ・パンフェロフ』
『現代訳 西鶴名作集 下巻』

武田麟太郎の文学的特徴

武田麟太郎の作品は、プロレタリア文学から出発し、市井の人々の生活を描くリアリズム文学へと移行した点が特徴的です。特に、井原西鶴の影響を受けた「市井事もの」では、江戸時代の庶民の生活や風俗を現代的な視点で描き出し、その描写力と独特の文体が評価されています。また、戦後の作品では、戦争による喪失感や虚無感を色濃く反映させ、人間の内面を深く掘り下げています。

関連人物

梶井基次郎：第三高等学校時代の友人。武田に大きな影響を与えた。
川端康成：同時代の作家。武田の才能を評価し、親交があった。
藤沢桓夫：中学時代の同級生で、同人誌活動を共にした。
徳田秋声：武田が敬愛していた作家。

参考文献

藤沢桓夫『私の大阪』、創元社、1982年。
大谷晃一『評伝 武田麟太郎』河出書房新社、1982年。
浦西和彦編『日本プロレタリア文学史年表事典』、日外アソシエーツ、2016年。

外部リンク

武田麟太郎：作家別作品リスト - 青空文庫

武田麟太郎は、その短い生涯の中で、様々な文学運動に関わり、独自の作風を確立しました。彼の作品は、当時の社会状況や人々の生活を映し出す貴重な資料としても、現代において読み継がれています。

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