死者の書 (折口信夫)

折口信夫『死者の書』：幻想と救済の物語

『死者の書』は、釈迢空（折口信夫）によって書かれた幻想的な小説です。この作品は、當麻寺に伝わる当麻曼荼羅縁起、特に中将姫伝説から着想を得ています。初出は1939年（昭和14年）で、『日本評論』に連載され、その後、1943年（昭和18年）に青磁社から単行本として出版されました。現在では、中公文庫、岩波文庫、角川ソフィア文庫から文庫版が刊行されています。

あらすじ

物語の舞台は、平城京が栄華を極めた時代。春の彼岸の中日、中将姫は二上山に沈む夕日の中で、神秘的な姿を目にします。それは、千部写経の成就に導かれるように現れた、非業の死を遂げた大津皇子の亡霊でした。姫は、その尊い姿を蓮糸で曼荼羅に織り上げ、さまよう魂を鎮め、自らも浄土へと導かれていくのです。

多様な展開

『死者の書』は、小説としてだけでなく、様々な形で表現されています。

人形アニメーション映画: 2006年には、川本喜八郎監督によって人形アニメーション映画化されました。宮沢りえ、観世銕之丞、榎木孝明といった豪華な声優陣が参加し、廣瀬量平が音楽を手がけました。ユーリー・ノルシュテインが友情アニメーションとして参加している点も特筆されます。
漫画: 近藤ようこによってコミカライズされ、『月刊コミックビーム』で連載されました。その完成度の高さから、「THE BEST MANGA 2017 このマンガを読め!」で第7位に選出されています。
* 企画展: 國學院大學博物館では、「折口信夫と『死者の書』」と題した企画展が開催され、作品の世界観をより深く知る機会が提供されました。

作品の魅力

『死者の書』は、単なる怪奇譚ではありません。死者の魂との交流を通じて、生と死、救済といった普遍的なテーマを深く掘り下げています。折口信夫の独特な文体と幻想的な描写は、読者を幽玄な世界へと誘い、心に深い感動を与えます。

中将姫が織り上げる曼荼羅は、芸術による救済の象徴とも言えるでしょう。また、大津皇子の魂が救われる過程は、人間の業や悲しみを乗り越える希望を示唆しています。この作品は、日本文学における幻想文学の傑作として、長く読み継がれることでしょう。

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