母里 (稲美町)

母里（もり）

兵庫県加古郡稲美町の東部に位置する地域であり、かつては加古郡母里村という自治体が存在しました。地理的には、加古川市、三木市、神戸市に隣接しています。母里地域の面積は約14.15平方キロメートルで、これは稲美町全体の約41パーセントを占める広大なエリアです。

地理と自然環境

地形は、加古川によって形成された高位段丘の上に広がっています。特に北部には草谷川が流れ込み、それに伴って下位段丘や沖積段丘が形成されています。地域全体は、西に向かって緩やかに傾斜する地形となっています。草谷川の両岸の段丘崖には、自然の樹林が広がっています。

地質は、上層が赤粘土に真土と砂が混じり、中層が粘土、下層が小石混じりの粘土といった特徴を持ちます。かつては井戸水など水資源に乏しく、農業用水の確保が課題でしたが、江戸時代に築造された加古大溝や、明治期に完成した淡河川疎水といった大規模な水利施設の整備により、広範囲での水田耕作が飛躍的に可能となりました。

人口

2012年度末時点での統計によると、母里地域の人口は5,730人、世帯数は2,005世帯であり、一世帯あたりの人員は約2.86人となっています。

歴史

母里村は、1889年に蛸草新村、草谷村、下草谷村、野谷新村、印南新村、野寺村の六つの村が合併して誕生しました。村名の由来については複数の説があります。一つは、奈良時代の歴史書「播磨風土記」に記されている「望理郷」に由来するというもの。これは、景行天皇がこの地の印南川（現在の加古川の一部）の美しい蛇行を見て「曲甚美（まがりいとうるわし）」と称賛したことから「望理（まがり）」と呼ばれた地名にちなむとされています。また、戦国武将で「黒田節」の逸話でも知られる母里友信ゆかりの母里姓との関連も指摘されることがあります。さらに、この地域に存在した小学校が1875年以前からすでに母里小学校と称されていたため、その名称が新しい村名として採用されたという考え方もあります。

近代以降の主な沿革として、1880年には国営の播州葡萄園が開設され、1888年には淡河川疏水事業が着工し、1891年に開通しました。そして1955年には、母里村が加古村、天満村と合併し、現在の稲美町が発足しました。

土地利用

母里地域では、古くは飛鳥時代から耕作が行われていた記録があり、江戸時代には新田開発が進められて現在の農地や集落の基盤が築かれました。この過程で、農業用水を確保するために多くのため池が造られ、現在でも地域の大半は農地やため池が占める農業的土地利用が中心です。地域はほぼ市街化調整区域に指定されており、農業振興地域や農用地区域が多く設定されています。淡山疏水が完成して以降、多くの土地が開墾されたり、畑地から水田へと転換されたりしました。長年にわたる圃場整備事業によって農業基盤が整備され、現在では区画整理された整然とした美しい農地景観が広がっています。また、農村総合整備モデル事業により、農道、集落道、公園といった生活関連施設の整備も進められてきました。一方、北部の三木市に隣接する一部区域には工場が集積しており、南部の一部にも既存工場が見られ、工業用地としての拡大も計画されています。草谷川沿いの段丘斜面には、保全区域として指定されたまとまった樹林地も存在しています。

交通

地域内に鉄道路線はなく、最寄り駅はJR山陽本線の土山駅となります。地域内の主な公共交通機関は神姫バスによって運行される路線バスです。道路網としては、主要地方道である兵庫県道65号神戸加古川姫路線が通り、その他にも複数の一般県道や、都市幹線道路である二見稲美三木線などが整備されています。

地域資源

自然資源：葡萄園池では希少な淡水クラゲの生息が確認されています。草谷川両岸の河岸段丘に残る樹林地は、稲美町内でも貴重な自然環境です。高薗寺周辺や、宮池北側の住吉神社周辺にもまとまった樹林地や社寺林が見られます。

歴史・文化・社会資源：いなみ野台地への重要な農業用水を供給する練部屋分水所があります。江戸時代に築造された加古大溝は、約3kmの開水路で、水路沿いに樹林地も見られます。高薗寺は町の民俗文化財に指定されており、約250年の歴史を持つ伝統行事「鬼追式」が毎年2月に催され、多くの見物客で賑わいます。宮池北側の住吉神社では毎年10月に秋祭りが行われます。1244年創建の草谷天神社でも毎年10月に秋祭りが催され、屋台と神輿が95段の石段を駆け上がる勇壮な光景が見られます。住吉神社や印南寺周辺には、開村当初からの旧家や美しい屋敷林が残り、良好な景観を形成しています。1914年に完成した掌中橋は、水中流を渡る御影石とレンガを組み合わせたアーチ型の水路橋です。1880年に開園した国営ブドウ園の遺構である播州葡萄園跡は、現在、国指定史跡となっています。印南地区や蛸草地区には、地場産業として酒造業や味醂製造業を営む企業が複数立地しています。

公共施設等：約700本の桜が植えられたさくらの森公園は、春には多くの花見客が訪れる憩いの場です。高薗寺球場は、ナイター設備や観覧席を備えた本格的な軟式野球場です。地域のほぼ中心部には、稲美町立母里小学校、母里幼稚園、母里保育園が集まっています。福祉施設としては、母里小学校の北側に稲美町立母里福祉会館があります。JA兵庫南稲美営農センターの近くにはJAの市民農園が設けられています。

教育機関

幼稚園は稲美町立母里幼稚園に通います。小学校は地域の大半が稲美町立母里小学校の校区ですが、野寺の一部は稲美町立加古小学校、印南の一部は稲美町立天満東小学校の校区となります。中学校は稲美町立稲美中学校区ですが、野寺の一部で加古小学校区の生徒は稲美町立稲美北中学校に通学します。

史跡

高薗寺
播州葡萄園跡

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