毒毛

毒毛（どくもう）

毒毛とは、ドクガ科、カレハガ科、ヒトリガ科、イラガ科、マダラガ科といった特定のガの仲間に属する幼虫、一般にケムシと呼ばれる形態を持つ一部の種が、外敵から身を守るために備えている、有毒な性質を持つ毛や棘の総称です。これらの毒毛は、構造や性質によって主に「毒針毛（どくしんもう）」と「毒棘（どくきょく）」の二つのタイプに分類されます。

毒針毛（どくしんもう）

毒針毛は、主にドクガ科、カレハガ科、ヒトリガ科の一部の幼虫に見られるタイプの毒毛です。この毒針毛の最大の特徴は、非常に抜けやすく、時に風が吹くだけでも幼虫の体から離れて飛散する点にあります。そのため、幼虫本体に直接触れていなくても、空気中を漂う毒針毛が皮膚や衣服に付着し、被害を引き起こすことがあります。

特にドクガ（特定の種）の毒針毛は、その形状に特徴があります。長さはわずか0.1から0.2ミリメートル程度と非常に微細で、片方の先端は鋭く尖っている一方、反対側の端は4〜5本に枝分かれして広がった構造をしています。この微小な毛の内部には、かゆみや炎症を引き起こすヒスタミンをはじめ、タンパク質を分解するプロテアーゼやエステラーゼといった複数の毒成分が含まれています。

毒針毛は、先端が広がった方を外側に向けて、主に幼虫の背中側にある「毒針毛叢生部（そうせいぶ）」と呼ばれる特定の部位に、束のように集まって配置されています。毒針毛がこの叢生部から離れて人の皮膚に付着し、その部分を掻いたり擦ったりすることで、鋭く尖った先端が皮膚に刺さります。一度皮膚に刺さると、広がったもう片方の端と、毒針毛の表面にある微細な棘のような構造が引っかかりとなり、容易には抜けにくい構造になっています。この抜けにくさが、毒成分を皮膚組織に留まらせ、炎症反応を長引かせる要因となります。

毒針毛の数は、幼虫の成長段階によって大きく変動します。孵化して間もない2齢幼虫の頃は数百本程度ですが、脱皮を繰り返して大きくなるにつれてその数は劇的に増加し、終齢幼虫（老熟幼虫）になる頃には、一匹あたり実に650万本もの毒針毛を持つに至る種も存在します。この数の多さも、毒針毛の飛散による被害を拡大させる要因の一つです。

毒棘（どくきょく）

毒棘は、主にイラガ科やマダラガ科の一部の幼虫に見られるタイプの毒毛です。毒針毛とは異なり、毒棘は幼虫の体から容易に抜け落ちることはありません。毒棘による被害は、幼虫の体に直接触れることによって発生します。触れた際に毒棘が皮膚に刺さり、その刺激を受けて棘の内部から毒液が皮膚組織内に注入される仕組みです。毒針毛のように飛散することはないため、被害は接触した部位に限られる傾向がありますが、痛みや炎症を引き起こすことがあります。

毒毛、特に毒針毛を持つケムシに遭遇した際は、直接触れないように注意し、風向きなども考慮して近づきすぎないことが重要です。付着した可能性のある衣服は適切に処理する必要があります。

（参照資料に基づき記述）

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