比企能員

比企能員とは

比企能員（ひき よしかず）は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した武将です。鎌倉幕府の有力御家人であり、その出自は阿波国（現在の徳島県）とされています。源頼朝の乳母であった比企尼の甥にあたり、比企尼の養子となって比企氏の惣領を継承しました。

鎌倉幕府での活躍

比企尼の縁により、能員は源頼朝の嫡男である源頼家の乳母父に選ばれました。頼家誕生の際には、比企尼の娘たちが乳母を務め、能員自身も頼朝の側近として活躍しました。また、能員は武将としても優れており、源義高の残党討伐や平氏追討などの戦で功績を上げました。その功績から上野国、信濃国の守護を任ぜられ、奥州合戦や大河兼任の乱にも大将軍として出陣しています。さらに、頼朝が上洛した際には、随兵として参院の供奉も務め、右衛門尉にも任ぜられました。

建久9年（1198年）、能員の娘である若狭局が頼家の側室となり、嫡男の一幡を産むと、能員は外戚として大きな権勢を振るうようになりました。正治元年（1199年）に頼朝が死去すると、能員は十三人の合議制の一人に選ばれ、梶原景時排斥にも関与しました。

比企能員の変（比企の乱）

建仁3年（1203年）、源頼家が病に伏せると、能員の運命は大きく変わります。北条時政は、頼家の遺領を頼家の嫡男である一幡と、弟の源実朝に分割することを決定しました。これに対し、一幡を擁立し権力を維持しようとした能員は、時政の謀反を頼家に訴えます。しかし、この密議は時政の知るところとなり、時政は先手を打って能員を自邸に呼び出し、殺害しました。

能員の死後、比企一族は一幡の屋敷に立てこもって抵抗しましたが、時政軍によって鎮圧され、一族は皆殺しにされました。一幡も焼死し、比企一族は滅亡しました。

事件の真相

この事件は、北条氏が権力を掌握する上で重要な転換点となりました。しかし、『吾妻鏡』の記述には、北条氏による後年の編纂であるため、不自然な点が多く見られます。

当時の貴族の日記によると、頼家が存命であるにもかかわらず、頼家が病死したという使者が鎌倉から派遣されており、能員の殺害が事前に計画されていた可能性が指摘されています。また、能員が単身で時政邸を訪れた点や、比企一族の反乱が北条氏の捏造である可能性など、多くの疑問が残されています。

比企能員の屋敷跡には、現在、妙本寺が建てられており、比企一族の墓があります。

比企能員の妻

能員の妻については、複数の説があります。

ミセヤノ大夫行時の娘説：『愚管抄』に記述があり、若狭局の母であるとされています。
渋河兼忠の娘説：『吾妻鏡』に、能員の舅として渋河兼忠が誅殺されたと記述されています。
* 三浦氏の娘説：妙本寺の寺伝に、三浦氏の女性が能員の妻として弔われていると記述されています。

いずれの説が正しいかは不明ですが、能員の妻が誰であったかは、比企氏の系譜を解明する上で重要なポイントとなります。

まとめ

比企能員は、鎌倉幕府の初期において重要な役割を果たした武将でしたが、北条時政との権力闘争に敗れ、一族とともに滅亡しました。この事件は、鎌倉幕府の政治史において重要な転換点であり、その背景には複雑な人間関係や権力争いが存在したと考えられます。比企能員の生涯は、鎌倉幕府初期の動乱期を象徴する出来事として、後世に語り継がれています。

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