比良駅 (江若鉄道)

比良駅：比良山地の玄関口として栄えた廃駅

滋賀県大津市北比良（旧滋賀郡志賀町）に存在した比良駅は、かつて江若鉄道が運行していた駅です。1969年（昭和44年）の江若鉄道廃止に伴い、翌年に廃駅となりました。比良山地の登山やスキーを楽しむ人々にとって重要な拠点として、長きに渡り利用されてきました。

開業と地域の期待

比良駅が開業したのは1926年（大正15年）、江若鉄道の近江木戸駅から雄松駅間が開通した時です。江若鉄道は当初、各町村に原則1駅のみ設置する方針でしたが、近江木戸駅と北小松駅の間には8キロもの空白区間が生じることになります。このため、木戸村、小松村、葛川村の一部住民から駅設置の要望が上がり、その結果、比良駅が開業に至りました。地域の強い期待を背負って誕生した駅だったと言えるでしょう。

比良山地への玄関口として発展

開業当初から、比良駅は1941年までは「比良口駅」と呼ばれていた蓬萊駅とともに、比良山地への登山拠点として利用されました。1960年代に入ると、武奈ヶ岳を中心とした比良山地の観光開発が本格化します。1960年（昭和35年）の登山リフト開業、1963年（昭和38年）の比良山スキー場開設を機に、比良駅はスキー場の最寄り駅としての役割も担うようになり、利用客数は増加しました。駅の機能向上も図られ、1964年（昭和39年）には登山者用の更衣室が設置されています。スキー場へのアクセスには連絡バス、登山リフト、ロープウェイが利用され、江若鉄道との連絡乗車券も販売されていました。これらの交通手段を組み合わせることで、多くの観光客が比良山地を訪れるようになりました。

廃線と駅の消滅

しかし、江若鉄道は1969年（昭和44年）10月31日に営業を終了し、比良駅も翌11月1日に廃止となりました。リフトやロープウェイ、スキー場はその後も営業を続けていましたが、2004年（平成16年）に全て閉鎖されています。現在では、駅の跡地は湖西線の比良駅の北側にあたり、線路跡もほとんど残っていません。近江舞子駅方面への線路跡の一部は、県道307号線として再利用されています。

駅の構造と利用状況

比良駅は列車交換が可能な交換駅で、島式ホーム1面2線を有していました。旅客だけでなく貨物も取り扱う一般駅であり、貨物側線を1本備えていました。初期の年間乗降客数や貨物取扱量については、資料によって数値が異なっています。正確なデータの特定には、更なる調査が必要でしょう。

参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『企画展 ありし日の江若鉄道 ―大津・湖西を結ぶ鉄路（みち）―』大津市歴史博物館、2006年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号、鉄道図書刊行会、1967年
田中真人、宇田正、西藤二郎「第16章 琵琶湖の首飾り―江若鉄道・湖西線」『京都滋賀 鉄道の歴史』京都新聞社、1998年
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング、2010年
吉田恭一『地形図で辿る廃線跡 古地図とともにいまはなき鉄道を歩く』心交社、1998年
「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年
* 志賀町誌編集委員会『志賀町誌　第3巻』志賀町、2002年

まとめ

比良駅は、比良山地の発展と深く関わり、地域の交通の要衝として重要な役割を果たしました。廃線から年月が経ち、その姿は消えましたが、多くの人の記憶の中に、比良山への登山やスキーの思い出とともに生き続けていると言えるでしょう。

もう一度検索