毛利甲斐守邸跡

東京都港区六本木六丁目に位置する毛利甲斐守邸跡は、かつて江戸時代の長門長府藩毛利家の上屋敷が置かれていた場所です。長門長府藩は長州藩毛利家の分家にあたり、藩主毛利綱元らの上屋敷がこの地にありました。現在の六本木ヒルズ内に整備された毛利庭園として、その歴史を今に伝えています。庭園内のひょうたん池のほとりには、かつて藩邸が存在したことを示す標柱が建てられています。

歴史

この上屋敷は、慶安3年（1650年）に長府藩初代藩主である毛利秀元によって設けられました。秀元は文禄4年（1595年）に甲斐守の官位を得ていました。

元禄15年（1702年）、江戸城下で起こった赤穂事件に関連し、吉良義央邸に討ち入った赤穂浪士のうち10名が、当時の長府藩主毛利綱元の屋敷にお預けとなりました。彼らは幕府の裁定を待つことになり、翌元禄16年（1703年）2月4日に、この屋敷で切腹して果てました。

赤穂浪士の扱いについては、他の大名家（水野家や細川家）が手厚く遇したと伝えられるのに対し、毛利家では罪人として冷遇したという伝承があります。これは、かつて毛利家の毛利師就が江戸城松の廊下で水野忠恒から刃傷を受けた際、吉良義央に倣って抜刀せず対応し、重傷を負ったという出来事と無関係ではないとも言われています。この伝承を反映してか、藩邸跡には赤穂浪士の墓や顕彰碑の類は一切存在せず、再開発によって庭園を整備した森ビルもこの方針を踏襲しています。

江戸中期には、享保3年（1718年）に第5代藩主毛利元矩が嗣子なく没したため、長府藩は一時的に断絶の危機に瀕しましたが、同年4月に清末藩主毛利匡広が名跡を継ぐことで再興を果たしています。

嘉永2年（1849年）には、後に陸軍大将となる乃木希典が、この藩邸内の侍屋敷で生誕し、幼年期を過ごしました。現在、この地は乃木希典の誕生地としても広く知られています。

幕末期には、長州藩が関与した禁門の変や長州征伐に対する幕府の処分により、長州藩本体やその分家である清末藩、徳山藩と共に、この長府藩の江戸藩邸も幕府に没収される憂き目にあいました。

明治時代に入り、旧藩邸の敷地は変遷をたどります。明治20年（1887年）には法律家である増島六一郎がこの地を取得し、自邸を構えるとともに、庭園を「芳暉園」と名付けました。

大正8年（1919年）4月には、「乃木大将誕生地」として旧跡に指定され（現在の東京都旧跡）、さらに昭和18年（1943年）3月には、「毛利甲斐守邸跡」としても旧跡の指定を受けています。

第二次世界大戦後も敷地の所有は移り変わり、昭和27年（1952年）にはニッカウヰスキーが取得し、東京工場として使用されました。その後は東映が買収して撮影所となり、昭和52年（1977年）にはテレビ朝日（当時のNET）が東映から譲り受けて同社の敷地の一部となりました。この際、東映はテレビ朝日の筆頭株主となっています。

そして、平成の再開発により、この地に六本木ヒルズが建設されることになりました。平成15年（2003年）4月のオープンにあたり、敷地内に整備された日本庭園は、開発を行った「森」ビルと「毛利」の語呂が良いことから、毛利庭園と名付けられ、一般に開かれた空間として再生されました。

現在の毛利庭園

現在の毛利庭園は、回遊式の日本庭園として、都心の憩いの場となっています。春にはソメイヨシノが咲き誇り、秋には鮮やかな紅葉が池の水面に映るなど、四季折々の美しい風景を楽しむことができます。冬には趣向を凝らしたイルミネーションで彩られ、多くの人々を魅了しています。

また、庭園はテレビ朝日の社屋に隣接していることから、同局の天気予報などで背景としてしばしば登場し、お馴染みの風景となっています。庭園内に設置された金のハートのオブジェは、特に若者たちの間でフォトスポットとして人気を集めています。

毛利甲斐守邸跡としての歴史を刻みながら、時代と共に姿を変えてきたこの場所は、赤穂浪士の終焉の地であり、偉人の生誕地であり、そして現代においては多くの人々が集う都市空間の一部として、多様な顔を持っています。六本木の高層ビルの谷間に残されたこの史跡は、江戸から現代へと続く東京の歴史の一端を静かに語りかけているようです。

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