木喰

木喰（もくじき）とは

木喰（1718年 - 1810年）は、江戸時代後期の仏教行者、仏像彫刻家、そして歌人です。生涯に三度改名し、木喰五行上人、木喰明満上人とも称しました。特定の寺院や宗派に属さず、全国を遍歴して修行する遊行僧の典型として知られています。

木喰仏の特徴

木喰の作風は伝統的な仏像彫刻とは大きく異なり、ノミの跡が残る型破りなものでした。しかし、その簡潔な造形の中には、深い宗教的感情が表現されています。大胆なデフォルメは現代彫刻にも通じる斬新さを持っています。

同じく全国を旅して仏像を制作した円空と比較されることがありますが、円空の作品が荒々しく野性的なのに対し、木喰の仏像は微笑みを浮かべた温和なものが多いのが特徴です。

生涯

出生と出家

1718年、甲斐国（現在の山梨県）に生まれた木喰は、14歳で家出し江戸へ向かいました。22歳の時に相模国（現在の神奈川県）の大山不動で出家し、その後、45歳で木食戒を受けました。当初は「木喰行道」と名乗っていましたが、後に「木喰五行菩薩」、「木喰明満仙人」と改名しています。

廻国修行

56歳で廻国修行に出発し、弟子の木食白道とともに、北海道から鹿児島まで日本全国を旅しました。各地で仏像を制作し、その足跡は日本各地に残っています。

東北・北海道での初期の造像

初期の作品としては、青森県で見つかった釈迦如来像があります。これは彩色が施されておらず、頭部には螺髪がありません。また、北海道では弟子の白道が制作したとされる像が、近年、木喰の作であることが判明しました。

四国堂建立と晩年

故郷には4度帰り、念願の日本一周を果たした後、四国堂を建立しました。四国堂には、四国八十八箇所霊場にちなんだ八十八体の仏像が安置され、自身の半生を振り返った『四国堂心願鏡』を著しました。

晩年の作品は「微笑仏」と呼ばれ、その特徴を備えています。山梨県内には多くの木喰仏が残されています。

死去

85歳で再び旅に出た木喰は、91歳まで仏像を彫り続けました。記録に残る限り、甲府の教安寺に残した七観音像が最後の作品とされています。1810年、93歳で亡くなりました。

木喰仏

作品数

木喰仏の総数は700体以上とされ、現存するものは600体以上、所在不明や焼失したものも合わせると700体を超えます。新潟県に最も多く分布し、次いで山梨県、静岡県、山口県に多く見られます。

代表作品

- 五智如来（山梨県身延町・永寿庵）
- 地蔵菩薩（日本民藝館蔵）
- 三十三観音像（新潟県小千谷市小栗山・観音堂）
- 十六羅漢、釈迦三尊、自刻像（京都府南丹市・清源寺蔵）
- 七仏薬師、自刻像（兵庫県猪名川町・毘沙門堂蔵）
- 勢至菩薩・聖観音、自刻像（兵庫県猪名川町・天乳寺蔵）
- 十王尊・白鬼・葬頭河婆、自刻像、立木子安観音（兵庫県猪名川町・東光寺蔵）

山梨県の木喰仏

山梨県には、身延町や韮崎市を中心に多くの木喰仏が現存しています。これらの像は、四国堂や寺院、個人宅などに安置されています。

木喰仏と庶民

木喰仏は、庶民の信仰に根ざした存在でした。病気の際に像の一部を削り取って飲んだり、子どもの遊び道具にされたりした例も見られます。

木喰と円空

木喰は、円空仏との出会いが造像活動のきっかけになったという説があります。しかし、木喰自身が円空について言及した資料は残っていません。木喰と円空の作風は異なり、木喰仏は円空仏よりも温和な印象を与えるのが特徴です。

木喰の書画

木喰は、仏像だけでなく、六字名号や祈願文などの書画も残しています。独特な書体を用いた作品が多く、その芸術性は高く評価されています。

歌人としての木喰

木喰は歌人としても知られ、生涯にわたり多くの和歌を詠みました。歌集も残っており、その中には名号和歌も含まれています。

木喰の再発見

木喰は、没後1世紀以上にわたり忘れ去られていましたが、美術史家の柳宗悦によって再発見されました。柳は、木喰仏の芸術性に魅了され、その調査・研究に尽力しました。

柳宗悦による再発見

柳は1924年、山梨県で偶然木喰仏を発見し、その芸術性の高さに感銘を受けました。その後、木喰仏の研究を精力的に進め、木喰の足跡をたどり、多くの木喰仏を発見しました。柳の研究によって、木喰の存在は再び世に知られることとなりました。

木喰仏の普及

柳の活動により、木喰仏は広く知られるようになりました。地方紙でも連日木喰仏の発見が報じられ、多くの人々がその魅力に触れることとなりました。

まとめ

木喰は、江戸時代後期に活躍した仏教行者、仏像彫刻家、歌人でした。彼の作品である「木喰仏」は、独特な作風と温和な表情が特徴で、人々に愛されています。柳宗悦によって再発見されて以降、その芸術性が高く評価され、現在でも多くの人々に親しまれています。

参考文献

五来重『円空と木喰』
『木喰展－庶民の信仰、微笑仏　生誕290年』
小島梯次「木喰の作品」
萩原光之「こころのうたびと-和歌からみた木喰さん-」
近藤暁子「山梨の木喰仏」
森谷美保「柳宗悦の木喰研究　大正末期に起こった木喰仏発見の騒動について」
近藤暁子「『木食白導一代記』にみる白道の半生」
広井忠男『野に生きる仏木喰上人』
広井忠男『越後の木喰上人』
広井忠男共著『木喰仏の魅力』
『微笑みに込められた祈り円空・木喰展』
小島梯次「微笑みに込められた祈り円空仏・木喰仏」
近藤暁子「東北地方で初めて発見された木喰仏」
「旅へ　微笑仏になった男　木喰上人二万キロの足跡を辿って」

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