気候性地形療法

気候性地形療法は、ドイツのクアオルト（療養地）で生まれた気候療法の一種です。特に気候の要素を活用し、運動効果を高めることを目的としています。

概要

気候性地形療法は、山岳や海辺などの自然環境豊かなクアオルトで、個人の体力に合わせた運動療法として行われます。1990年代からドイツで医療保険が適用されるようになり、比較的新しい療法と言えます。

この療法の始まりは、1990年代後半にミュンヘン大学のアンゲラ・シュー教授が、バイエルン州のガルミッシュ＝パルテンキルヒェンで気候が人体に与える影響を研究したことに遡ります。シュー教授は、「冷気と風」を上手に活用することで運動効果が増すことを発見しました。現在、ドイツでは主に心臓循環器系のリハビリとして、3週間の治療に保険が適用されています。また、一般市民の健康づくりにも広く取り入れられています。

気候性地形療法の要素は大きく2つあります。

1. 体力に合わせた運動: 自然の地形を生かしたコースを、個々の体力に合わせて歩きます。運動強度は細かく計測されます。
2. 気候要素の活用: 体表面を「少し冷たい」と感じる程度に発汗や衣類を調整し、「冷気と風」を活用することで、運動効果を高めます。これは、従来の地形療法に気候要素を加えることで、運動効果を増大させるという考え方に基づいています。

治療

治療期間は通常3～4週間で、週に3～4回、20～40分の運動負荷を行います。

1. 初期診断と処方: 専門医の診察を受け、自転車エルゴメーターなどで体力を測定します。その結果に基づいて、体力に合わせたコースや運動内容が処方されます。
2. 専門ガイド: 「気候療法士」と呼ばれる専門ガイドが、処方箋に基づき、気候性地形療法の専門コースを案内します。処方箋には運動だけでなく、リラックス効果のある自律訓練やヨガ、水中運動なども含まれることがあります。
3. 運動強度の管理: 運動中は心拍数を測定し、目標心拍数に合うように運動強度を調整します。目標心拍数は、年齢や服用薬などを考慮して個別に設定されます。
4. 経過観察と処方変更: 気候療法士は、専門医に週ごとの状況を報告し、新しい処方箋に基づいて運動を指導します。
5. 最終診察: 3週間後、患者は専門医と面談し、診察を受けて治療が終了します。

運動効果を高めるポイント：「少し冷たい」

気候性地形療法では、体表面温度を約2℃下げる程度、つまり「少し冷たい」と感じる程度に発汗や衣服を調整します。これにより、同じ運動強度でも心拍数が下がり、心臓への負担を軽減できます。また、春から夏にかけては、運動中の脂肪燃焼効果も期待できます。

体感温度を下げる方法としては、衣類の調整で汗を蒸発させ、気化熱で体表面温度を下げる、コース途中の水場で腕を冷やすなどの方法があります。

効果

気候性地形療法は、主に以下の疾患への効果が期待されています。

心臓リハビリ（心筋梗塞や狭心症のリハビリテーション）
高血圧
骨粗鬆症

高血圧の治療においては、血圧の平均値を正常範囲内に収束させる効果が期待できます。

活用例

アウディの企業保険では、気候性地形療法を活用した「健康増進ウイーク」を提供しています。このプログラムでは、医師の診察、気候性地形療法のウォーキング、水中運動、ヨガや自律訓練法の指導、食生活改善指導などを1週間のスケジュールで実施し、生活習慣の改善を促します。

日本における歴史と取り組み

日本においては、山形県上山市が取り組む「上山型温泉クアオルト事業」が代表的な例です。上山市には、アンゲラ・シュー教授から認定を受けた専門コースが20コースあり、シュー教授の指導の下で気候性地形療法が行われています。

上山市では、ドイツの気候療法士をモデルにした専門ガイド「蔵王テラポイト」を養成し、気候性地形療法を基本とした「クアオルト健康ウオーキング」を年間360日開催しています。この取り組みは、住民の健康づくりや宿泊型新保健指導など、特定保健指導にも活用されています。

近年では、上山市以外でも気候性地形療法の専門コースが整備され、「クアの道（健康の道）」として地域住民の健康づくりや交流人口の拡大に貢献しています。

クアオルト健康ウオーキングコースを定めている市町村については、日本クアオルト研究所の「クアオルト健康ウオーキングコースガイド」を参照してください。

参考文献

小関信行／アンゲラ・シュー（著）『クアオルト（Kurort）入門／気候療法・気候性地形療法入門〜ドイツから学ぶ温泉地再生のまちづくり〜』

外部リンク

日本クアオルト研究機構
日本クアオルト研究所
* かみのやま温泉-クアオルト

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