水内ダム

水内ダム：犀川を治め、電力を生む

長野県長野市、信濃川水系犀川に位置する水内ダムは、高さ25.3メートルの重力式コンクリートダムです。東京電力リニューアブルパワーが所有・運営し、同社水内発電所に水を供給することで、最大3万1600キロワットの電力を生み出しています。ダム湖は、美しい景観から「琅鶴湖」と名付けられ、周辺地域に豊かな自然と文化をもたらしています。

激動の建設史：電力開発と戦争の影

水内ダムの建設は、大正時代から昭和時代にかけて、幾多の困難を乗り越えて進められました。当初、東信電気が犀川水力発電計画を申請しましたが、他電力会社との競合や交渉を経て、犀川電力による水内発電所として1927年に許可が下りたのです。工事は昭和5年に道路改良工事が完了してから始まり、昭和14年に着工。軍需工場への電力供給という背景もあり、地元住民の懸念をよそに、ダム建設は急ピッチで進められました。

建設現場では、爆薬を用いた大規模な発破が繰り返され、導水路トンネル工事では型枠支保工の圧壊といった危険と隣り合わせの作業が続きました。さらに昭和16年には2度の洪水に見舞われ、資材や仮設橋が流される被害を受けながらも、昭和18年には発電機の運転を開始。完成までに36名の犠牲者が出たという、人々の努力と犠牲の上に成り立ったダムなのです。

当初計画では、水内発電所の上下流に複数の水力発電所が計画され、日本発送電の事業として進められました。しかし、日本発送電の分割民営化後、東京電力が事業を引き継ぎ、昭和29年には水内発電所の完成を迎えました。その後も周辺地域では、生坂、平、笹平、小田切などの発電所が建設され、犀川流域の電力供給に貢献しています。

琅鶴湖：美しい景観と文化の融合

水内ダムによって形成された琅鶴湖は、その美しい景観から多くの観光客を惹きつけています。湖上では屋形船が運行され、毎年8月15日には灯籠流しや花火大会が開催。春には湖畔の梅園で花祭りも行われ、四季折々の魅力を楽しむことができます。

琅鶴湖周辺には、信州新町美術館や有島生馬記念館といった文化施設も存在します。信州新町美術館は、画家栗原信の提唱が建設のきっかけになったと言われ、有島生馬記念館は、詩人・画家である有島生馬が琅鶴湖に命名したという歴史を物語っています。

水害問題と治水対策：ダムと地域社会の葛藤

水内ダムは、その建設以来、水害問題とも深く関わってきました。昭和20年と昭和58年には、大雨による水害が発生し、ダムの役割をめぐって住民と電力会社との間で激しい対立が起こりました。昭和58年の水害では、住民による「信州新町台風10号水害被災者同盟会」が結成され、ダム撤去を求める運動が展開されました。

長期間にわたる交渉の結果、東京電力は多額の解決金と被災地復興費用を支払うとともに、ダム湖の堆砂浚渫を行うことで合意しました。また、長野県は、久米路峡の河川改修工事を実施し、新たな河川トンネルの開削など、治水対策に力を注いできました。これらの取り組みによって、水害リスクの軽減に一定の成果を上げ、地域社会との共存を目指した取り組みが現在も続けられています。

アクセスと周辺情報

水内ダムへのアクセスは、長野駅からアルピコ交通のバスを利用できます。周辺には、名勝・久米路峡や久米路橋といった歴史的な観光地もあります。水内ダムは、電力供給という役割に加え、地域の観光資源としても重要な存在であり、その歴史と現状、そして未来にわたる役割は、これからも注目されるべきでしょう。

もう一度検索