水陸両用戦車

水陸両用戦車は、水上を航行したり、水底を潜水渡渉したりできる能力を持つ戦車です。河川や湖沼などの水域を突破する際に、その能力を発揮します。水域での移動方式によって、大きく分けて浮航方式と潜水渡渉方式の2種類があります。

概要

浮航方式: 車体自体を軽量化し、浮力材を装着することで水面に浮かび、スクリューや履帯で推進します。
潜水渡渉方式: シュノーケルを使い、水底を走行します。浮航方式に比べて重量制限が緩く、重武装が可能です。

浮航方式

浮航方式は、車体を軽量に設計するか、浮力材を装着して水上を航行する方式です。浮力を得るために、折りたたみ式のスクリーンを展開する例もあります。推進方法としては、以下のものがあります。

履帯推進: 陸上走行用の履帯を動かして水をかき、推進力を得ます。履帯の形状が推進力に影響します。
スクリュー推進: 専用のスクリューを装備して推進力を得ます。水上での推進力は高いですが、陸上では重量物となります。
外輪船方式: 起動輪に水かきを装着し、外輪船のように推進します（実験例）。

浮航方式の欠点は、軽量化が必要なため、十分な武装や装甲を装備するのが難しいことです。そのため、軽戦車以下の戦闘力しか持たない車両が多いです。既存の通常戦車に浮力材を追加装備する試みもありましたが、必要な浮力材が巨大になり、実用化には至りませんでした。

現代の装甲車には、渡河に使用できる程度の浮航能力を持つものが多く存在します。しかし、戦車ほどの戦闘力はありません。また、防御力を重視して浮航能力を諦めた車両や、開発当初は浮航可能だったものの、装甲強化による重量増加で浮航能力を失った例もあります。

潜水渡渉方式

潜水渡渉方式は、シュノーケルを用いて水底を走行する方式です。浮航方式に比べて重量制限が緩やかなため、十分な武装や装甲を施せる利点があります。しかし、完全な水密性を保つ必要や、複雑なシュノーケル機構を装備する必要があります。また、運用時には水中で擱座する危険性もあります。第二次世界大戦時のドイツ戦車に多く採用されました。

現代の主力戦車の多くは、シュノーケルを追加装備することで、水深3-5m程度を潜水渡渉する能力を備えています。そのため、現代ではこの程度の能力では、あえて水陸両用戦車とは呼ばれません。

歴史

第二次世界大戦前

第一次世界大戦後、1920年代には各国で水陸両用戦車の研究が始まりました。日本陸軍は1926年に水陸両用小型装甲車を試作し、その後も数種類の試作車を開発しましたが、正式配備には至りませんでした。

量産された最初の水陸両用戦車は、1931年頃に開発されたヴィッカース・カーデンロイドA4E11/12水陸両用戦車です。浮航方式でスクリュー推進が可能でしたが、武装や装甲は豆戦車級の低性能でした。イギリス陸軍には不採用となりましたが、中国やオランダ、ソ連などに輸出され、ソ連ではT-33としてコピー生産されました。その後、独自の改良型であるT-37、T-38が生産され、ノモンハン事件や冬戦争に投入されました。

潜水方式では、ソ連でBT-5戦車を改造したBT-5PKhが開発され、1936年頃に少数配備されました。

第二次世界大戦

第二次世界大戦では、上陸作戦の増加に伴い、多数の水陸両用戦車が開発・実戦使用されました。

ドイツ国防軍は、イギリス本土上陸作戦のために、既存の戦車を改造した水陸両用戦車を開発しました。浮航方式のII号水陸両用戦車は、II号戦車の車体に防水カバーを装着し、側面にフロートを取り付けたものです。推進は履帯で行い、水上での移動速度は10km/h程度でした。潜水方式のIII号潜水戦車及びIV号潜水戦車も開発され、水深15m程度の海底を履帯で進むことができました。

これらの水陸両用戦車は、イギリス本土上陸作戦には使用されませんでしたが、II号水陸両用戦車とIII号潜水戦車はバルバロッサ作戦に投入され、ブク川渡河作戦で使用されました。ティーガーI重戦車の初期型も、渡河用の潜水装備を有していました。

太平洋戦域では、[アメリカ海兵隊]]が LVT]系列の水陸両用[[戦車を使用しました。これは、水陸両用の装甲兵員輸送車であるLVTをベースに、戦車や自走砲用の砲塔を搭載したものです。また、M4中戦車を改造し、エンジン後部から巨大な吸気・排気用装置を上方に伸ばした車両も使用されました。

イギリス軍は、M4中戦車を改造したシャーマンDDと呼ばれる浮航式の水陸両用戦車を開発し、ノルマンディー上陸作戦に投入しましたが、多くが水没する結果となりました。

日本では、海軍が陸戦隊用に開発した特二式内火艇が実戦投入されました。

第二次世界大戦後

第二次世界大戦後、一定の水陸両用性能を有する装甲戦闘車両が増える一方、専用の水陸両用戦車はあまり多くありません。ソ連のPT-76や、中国製の発展型が挙げられる程度です。PT-76系列はベトナム戦争などで実戦使用されました。

冷戦期には、海底作業や潜入工作用の履帯付き潜水艇が研究され、これらが「潜水戦車」と俗称されることがありました。

主な水陸両用戦車

ヴィッカース・カーデンロイドA4E11/12
T-37/T-38
II号水陸両用戦車
III号潜水戦車/IV号潜水戦車
[LVT]系列
シャーマンDD
特二式内火艇
PT-76

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