氷食

氷食とその地形形成

氷食、または氷蝕は、氷河が岩石や土砂を侵食する自然現象を指します。氷河は強力な侵食作用を持ち、氷の重さや流動性によって周囲の地形を大きく変化させます。特に、節理のある岩石や侵食に対する抵抗性が高い岩石は、氷食の影響を受けやすく、結果として特徴的な氷食地形が形成されます。

氷食のメカニズム

氷食の作用はおもに削磨と剥ぎ取りに分けられます。削磨は氷河底面に付着した微細な岩粉や砂により岩盤が研磨される過程を示し、また流動方向に沿った大きな岩石片が摩擦を生じさせ、特有の擦痕や条痕、溝を刻む現象です。一方、剥ぎ取りは、氷河が岩層を剥がし取ることで地形が変わる過程であり、これにより周囲の地形は大きく変容していきます。

氷食地形の分類

氷河は、その流動過程で造られる侵食地形と堆積地形を形成します。これらの地形は、見た目や成り立ちによって異なります。

侵食地形

• - 圏谷: 半円形または半楕円形の谷で、急峻な谷壁に囲まれた特徴があります。カールとも呼ばれ、氷食によって形成された典型的な形態です。
• - U字谷: 幅広の谷床と急斜面の谷壁を持つU字状の地形で、氷食によって形成されます。
• - アレート: 急峻な稜線を持ち、両側からの圏谷の後退によって生じる地形です。鋸歯状の断面が特徴的です。
• - 氷食尖峰: ピラミッド型の地形で、氷河の圏谷からの侵食によって形成されます。
• - 羊背岩: 上流側が滑らかで、下流側がごつごつとした特徴を持つ地形です。

堆積地形

• - モレーン: 氷河が上流で削り取った砂礫が、氷河の末端や底に堆積して生じる地形です。
• - 氷堆丘（ドラムリン）: 氷河の流動方向に長軸を持つ楕円形の小丘で、群をなして分布することが多いです。
• - エスカー: 氷河の中の融水に含まれる岩屑が堆積して形成された自然堤防のような地形です。
• - ケイム段丘: 急斜面の丘で、氷河縁に砂礫が堆積することによって形成されます。
• - ザンドル: 融水が扇状地を形成する地形であり、氷河の影響を受けて出来上がります。
• - 釜状陥没地（ケトル）:氷河の融水によって形成される円形の湖です。

氷食輪廻の概念

氷食の地形変化は、W.M.デイヴィスが1909年に提唱し、その後W.H.ホッブズによって系統的に説明された「氷食輪廻」の考え方に基づいています。この理論では、氷河によって形成された地形が時間を経てどのように変化するかが示されます。

• - 幼年期: 初期段階では、圏谷が形成され、比較的緩やかな地表面が残ります。
• - 壮年期: 圏谷が進行し、間の地表面が消え、アレートや氷食尖峰が形成されます。
• - 老年期: 地形が風化され、鋭い低い岩峰が散在する状態に至ります。

氷食による地形変化は、気候変動や地盤の隆起によって再び繰り返されることがあります。このように、氷食のプロセスは時間を経て不断に再現されるのです。

参考文献

• - 浮田典良編2003『最新地理学用語辞典：改訂版』大明堂
• - Susan Mayhew編2003『オックスフォード地理学辞典』田辺裕監訳、朝倉書店

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