永劫より

古代ミイラと邪神が織りなす恐怖：クトゥルフ神話短編『永劫より』

ヘイゼル・ヒールドとH・P・ラヴクラフトの合作によるクトゥルフ神話短編小説『永劫より』（原題：Out of the Aeons）は、1935年に発表された作品です。南太平洋の島で発見された古代ミイラを巡る怪奇な事件と、太古の超古代文明ムー大陸にまつわる邪神ガタノトーアが深く関わる物語が、読者の恐怖心を煽ります。

本作は、1878年に南太平洋の地図にない島で発見されたミイラと、金属円筒に入った巻物を中心に物語が展開します。その島はその後消息不明となり、ミイラと巻物はボストンのキャボット考古学博物館に収蔵されます。1931年、ムー文明ブームの波に乗り、記者のセンセーショナルな報道によって博物館は注目を集め、大勢の見学者が押し寄せます。

ミイラの正体を探る学者やオカルティストたちが現れ、中でもオカルティストのド・マリニーは、ミイラが古代ムー大陸の神官トヨグであると主張します。しかし、ミイラには異変が起こり始めます。変質の兆候を示し、やがて警備員殺害事件や侵入者の怪死事件へと発展していきます。

解剖の結果、ミイラは外部が石化しているものの、内臓や脳は生きていたことが判明します。この事実に衝撃を受けた関係者たちは秘密を厳守しますが、その後、関係者たちが次々と不審死を遂げていきます。

物語の鍵を握るのが、ロバート・E・ハワードが創作した架空の魔道書『無名祭祀書』です。この書物には、ムー大陸で崇拝されていた邪神ガタノトーアに関する記述があり、ミイラの正体や事件の真相解明に繋がっていきます。

『無名祭祀書』によれば、ガタノトーアは見るものを石化させる恐るべき力を持つ邪神であり、ムー大陸では生贄を捧げることでその怒りを鎮めていたとされています。神官トヨグは、ガタノトーアへの反乱を試みますが、陰謀によって失敗し、ミイラとなったと推測されます。

本作には、ラヴクラフトの他の作品にも登場するド・マリニーやチャンドラプトゥラ師も登場し、作品世界の広がりを感じさせます。また、ラヴクラフトがヒールドからアイデア提供を受けて執筆したという経緯も、本作の興味深い点です。

『永劫より』は、ミイラの発見から調査、事件発生、そして真相解明へと続くスリリングな展開に加え、ムー大陸というロマンあふれる舞台設定と、邪神ガタノトーアの恐怖が絶妙に融合しています。石化という、見る者に強烈な恐怖を与える描写も印象的です。クトゥルフ神話ファンのみならず、ホラー小説ファンにもおすすめできる、読み応えのある作品です。

ガタノトーア：石化の邪神

『永劫より』に登場するガタノトーアは、クトゥルフ神話において重要な役割を担う旧支配者の一柱です。その特徴は、何よりも石化の力です。ガタノトーアを目撃したものは、脳を生かしたまま全身が石と化してしまうとされています。

ガタノトーアは、ムー大陸のヤディス＝ゴー山にある地下要塞に潜んでおり、古来より人身御供によってその怒りを鎮められていました。しかし、ガタノトーアの恐怖政治に反抗する者もいました。シュブ＝ニグラスという神を信仰する神官トヨグです。トヨグはガタノトーア討伐のために対策を立てますが、ガタノトーア側の大神官イマシュ＝モの策略によって、偽の巻物を持って挑み、命を落とします。

ガタノトーアの起源については諸説あり、暗黒星ユゴスやゾス星系などが挙げられます。また、リン・カーターの作品ではクトゥルフの息子、ゾス三兄弟の長兄という設定も加えられています。様々な作家によって解釈が加えられ、その存在感は増していくばかりです。

『永劫より』は、ガタノトーアという邪神の存在を通して、人類の愚かさや恐怖、そして信仰の力などを描いています。ガタノトーアは、クトゥルフ神話において、最も恐ろしい存在の一つとして、今後も多くの読者を魅了し続けることでしょう。

『永劫より』の影響

『永劫より』は、後続のクトゥルフ神話作品にも大きな影響を与えました。特に、リン・カーターはガタノトーアを核としたクトゥルフの子供たちシリーズ『超時間の恐怖』を創作しています。

また、『永劫より』におけるムー大陸、ガタノトーア、そして『無名祭祀書』といった要素は、他の作家たちによって様々な形で再解釈され、クトゥルフ神話の豊かな世界観を形成する上で重要な役割を果たしました。

石化というモチーフは、クトゥルフ神話の中でも独特の恐怖感を生み出し、多くの作家にインスピレーションを与え続けたと言えるでしょう。

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