永積洋子

永積洋子（ながづみ ようこ、1930年 - 2023年）は、日本の歴史学者であり、近世日本の対外関係史、特に通交貿易史研究において顕著な業績を残した人物です。東京大学名誉教授でもあり、また東京大学文学部初の女性教授として、教育・研究の発展に貢献しました。

来歴

哲学者の三木清を父に、経済学者で農学者の東畑精一を伯父に持つ家庭に、1930年10月8日、東京で生まれました。恵まれた知的環境の中で育ち、東京大学文学部国史学科を卒業、1956年には同大学大学院修士課程を修了しました。大学院修了後は、通算三度にわたってオランダに留学し、専門分野に関する知見を深めました。

職歴と教育者としての貢献

中央大学で教鞭を執った後、1987年に夫である東京大学文学部教授の永積昭氏が死去したことを受け、東京大学文学部教授に就任しました。これは、同文学部における初の女性教官が誕生するという、当時の学界においては画期的な出来事でした。東京大学を1991年に定年退官した後は、城西大学経済学部教授や東洋文庫研究員を歴任し、研究活動を精力的に続けました。

研究業績

永積氏の主要な研究テーマは、江戸時代の対外関係史、特に近世初期における通交と貿易の実態解明にありました。この分野の研究を進める上で、長崎出島以前に平戸に置かれていたオランダ商館に関する記録は極めて重要な史料となります。永積氏は、これらの商館日記をはじめとする貴重な史料の調査、収集、そして翻訳に心血を注ぎ、それまで明らかでなかった近世初期日本の外交交渉や貿易取引の詳細を明らかにしました。これらの地道かつ先駆的な実証研究は、日本の近世史研究に新たな視点をもたらし、その学術的な貢献は高く評価されています。1990年には、これらの研究成果をまとめた「近世初期の外交」により、東京大学から文学博士の学位を取得しています。

受賞

1991年には、前年に上梓した初の単著『近世初期の外交』によって、第3回和辻哲郎文化賞学術部門を受賞しました。これは、長年の研究に対する学術的な評価の高さを示すものです。

親族関係

学者一家に生まれた永積氏は、親族との間にも研究を通じた深い繋がりがありました。特に、従兄弟にあたる経済史学者の速水融氏とは、共通の伯父（速水氏にとっては父）である東畑精一を介した親戚関係であると同時に、共著や共訳書を出版するなど、学術的な協力を長年にわたり行っていました。

著作

永積洋子氏の主な著作は以下の通りです。

単著

• - 『近世初期の外交』創文社, 1990年
• - 『平戸オランダ商館日記 近世外交の確立』〈講談社学術文庫〉, 2000年
• - 『朱印船』吉川弘文館, 2001年

翻訳

• - ヤン・ロメイン著, 永積昭共訳『アジアの世紀』アジア経済研究所, 1961年
• - 『平戸オランダ商館の日記』第1-4輯, 岩波書店, 1969年-1970年
• - 『南部漂着記 南部山田浦漂着のオランダ船長コルネリス・スハープの日記』キリシタン文化研究会, 1974年
• - ヘンドリック・ドゥーフ著『ドゥーフ日本回想録』雄松堂出版〈新異国叢書〉, 2003年

共著・編著

• - 武田万里子共著『平戸オランダ商館イギリス商館日記 碧眼のみた近世の日本と鎖国への道』そしえて, 1981年
• - 『唐船輸出入品数量一覧 1637〜1833年 復元唐船貨物改帳・帰帆荷物買渡帳』創文社, 1987年
• - 『「鎖国」を見直す』国際文化交流推進協会〈シリーズ国際交流〉, 1999年

結び

永積洋子氏は、平戸オランダ商館史料を駆使した実証的な研究により、近世日本の対外関係史研究を牽引しました。教育者としても多くの後進を育成し、その学問的貢献は日本の歴史学界において今なお高く評価されています。2023年7月29日にその生涯を閉じました。

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