江川太郎左衛門

江川太郎左衛門とは

江川太郎左衛門（えがわたろうざえもん）は、江戸幕府の世襲代官の通称であり、伊豆国田方郡韮山（現在の静岡県伊豆の国市韮山町）を本拠地としていました。江川家は中世以来の名家であり、清和源氏の流れを汲む源頼親を始祖とします。当初は宇野氏を名乗っていましたが、平安時代末期に伊豆に移住し、宇野治長が源頼朝の挙兵を助けた功績により江川荘を安堵されたことで、その支配が確立しました。室町時代に江川家と改称し、その後も鎌倉幕府や後北条氏など、その時代の支配者に仕えました。

江川家の歴史

天正18年（1590年）の小田原征伐の際、江川家28代当主である英長は徳川家康に従い、代官に任ぜられました。以降、江川家は享保8年（1723年）から宝暦8年（1758年）の間を除き、明治維新まで相模・伊豆・駿河・甲斐・武蔵の天領5万4千石（後に26万石に拡大）の代官として、民政に当たりました。しかし、幕臣としての身分は低く、世襲家禄はわずか150俵でした。

歴代当主

江川家は平安時代から明治維新まで38代続き、代々が太郎左衛門を名乗りました。主な当主としては以下の人物が挙げられます。

江川英毅（35代）：農地の改良や商品作物の栽培に尽力し、天領の増収に貢献しただけでなく、文化人としても知られています。
江川英龍（36代）：一般に「江川太郎左衛門」と言えば、この人物を指すことが多いです。号は坦庵。洋学の導入に尽力し、民政や海防の整備に大きな功績を上げました。品川台場（お台場）の建設や、鉄製大砲を鋳造するための反射炉の建設に着手しました。また、日本で初めてパンを焼いた人物としても知られています。
江川英敏（37代）：英龍の三男。父の事業を継ぎ、反射炉の完成や農兵隊の編成を行いましたが、若くして病没しました。
江川英武（38代）：英龍の五男。号は春緑。明治維新の際の当主であり、廃藩置県後には韮山県令となりました。その後、岩倉使節団に随行し留学。帰国後は地域教育に尽力しました。
江川英文（39代）：英武の子。東京大学名誉教授で、国際私法を専門とする法律学者。江川家代々の資料を研究者に公開するため、財団法人江川文庫を設立しました。
江川英晴（40代）：英文の長男。元東芝代表取締役副社長で、半導体技術者でした。
江川滉二（41代）：英文の次男。東京大学医科学研究所名誉教授であり、日本免疫治療学研究会の会長を務めました。
江川洋（42代）：滉二の長男。一級建築士であり、財団法人江川文庫の代表理事です。

江川家の屋敷

江川家の江戸屋敷は、現在の東京都港区芝にありました。この場所は、『江戸切絵図芝口西久保愛宕下之図』に「江川太郎左衛門鉄砲調練所」として示されています。慶應義塾のすぐ近くに位置しており、明治3年（1870年）には、屋敷の一部が慶應義塾に貸し出され、「分塾」または「外塾」として使用されました。その後、塾は三田に移転しましたが、福澤諭吉の妻の実弟である土岐謙之助が江川太郎左衛門の門弟であったことや、江川家の江戸屋敷が福澤諭吉に払い下げられたことが知られています。現在、慶應義塾の正門は、江川家の屋敷から移築されたものです。

関連情報

江川家に関する情報は、以下の資料や施設で確認することができます。

韮山代官所: 江川家が代官を務めた韮山には、代官所跡が残っています。
三嶋暦師の館: 江川家は安政の大地震で倒壊した河合家の再建を支援しました。
重要文化財 江川邸: 江川家の邸宅は重要文化財に指定されており、一般公開されています。
伊豆韮山江川家文書データベース: 江川家に関する詳細な資料は、データベースで閲覧することができます。

江川家は、江戸時代から明治時代にかけて、日本の歴史に大きな影響を与えた名家であり、その足跡は現在も多くの場所で確認することができます。

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