江戸時代の日本の人口統計

江戸時代の人口：調査の変遷と推計値

江戸時代の人口は、現代の研究においても重要な研究テーマであり、様々な推計や議論がなされています。本稿では、江戸時代における人口統計の変遷、調査方法、そして得られた知見について詳細に解説します。

初期の人口調査：豊臣秀吉と人掃令

江戸時代以前、豊臣秀吉は朝鮮出兵にあたり、兵力動員のため全国規模の人口調査を実施しようとしました。これは「人掃令」として知られていますが、その調査の徹底度合いは不明です。しかし、徳島藩の「棟付改」や細川家領での「人畜改」など、各地で同様の調査が行われていたことが分かっています。これらの調査は、秀吉の政策を受けて行われたと推測されています。

江戸時代に入ると、キリシタン対策として宗門人別改帳制度が確立されました。これは、住民の宗教を把握するための制度でしたが、同時に人口に関する情報も得られるようになりました。しかし、全国を網羅した本格的な人口調査とは言い難く、正確性に課題がありました。

本格的な全国人口調査は、徳川吉宗による享保6年（1721年）に始まりました。その後、享保11年（1726年）以降は6年ごとに実施されるようになり、日本の大まかな人口概要を把握できるようになりました。しかし、この調査にも多くの問題がありました。

まず、武士や公家、皇族、そして無籍者は調査対象から除外されていたため、正確な人口把握には至りませんでした。また、調査方法は幕府直轄領と各藩で異なっており、乳幼児や被差別階級の扱いが統一されていませんでした。さらに、各藩が意図的に人口数を過少または過大に申告するケースもあったと考えられます。これらの要因により、調査結果は実際の人口よりも数百万人も少ないと推定されています。

江戸時代中期・後期の推定人口

現代の研究者らは、様々な資料を基に江戸時代中期・後期の日本の人口を約3000万人前後と推定しています。しかし、この数字についても、様々な推計方法や仮定の違いによって異なった結果が出ています。

江戸時代前期の人口推計：諸説の比較

江戸時代前期の人口については、資料の不足から推計に大きな幅があります。吉田東伍による1人1石の仮定に基づく推計や、速水融による石高の見直し、さらに鬼頭宏、斎藤修、ウィリアム・ウェイン・ファリス、藤野正三郎といった研究者による様々な推計がなされており、それぞれ異なる結論が示されています。

幕府人口調査と推計値：諸国人数帳

享保年間から始まった幕府の人口調査は、「諸国人数帳」としてまとめられました。この帳簿には、旧国別、男女別の人口が記載されています。しかし、調査時期や年齢制限、対象者の範囲が統一されていなかったこと、記録の欠落など、正確性には限界があります。そのため、幕府調査の人口に一定の割合（17％や20％）を加えることで、実際の人口を推計する試みも行われています。

旧国別人口変遷：地域差

旧国別の人口変遷をみると、地域差が顕著です。幕府の調査結果や明治時代の戸籍人口を比較することで、江戸時代の各地域の具体的な人口動態を分析できます。しかしながら、調査方法や記録の不備のため、完全な把握には至っていません。

地域別推定人口変遷：飢饉の影響

享保、天明、天保の三大飢饉は人口減少に大きな影響を与えました。地域別に見ると、東奥羽と北関東では人口が減少した一方、北陸、東山、東海、中国、四国、九州では増加傾向が見られます。

幕末の推定人口変遷：明治維新への移行

幕末期の人口については、幕府調査と明治時代の戸籍人口との間に統計の空白期間があり、正確な変遷を把握することが困難です。しかし、明治維新後の人口急増を考えると、幕末期にはすでに人口増加の兆候があったと考えられます。

辺境地域の人口変遷：蝦夷地、琉球

蝦夷地（北海道）や琉球（沖縄）の人口は、本土とは異なる変遷を遂げました。蝦夷地では和人の流入とアイヌの人口減少が、琉球では薩摩藩による支配と独自の社会構造が人口動態に影響を与えています。

主な藩の人口調査：調査方法の多様性

各藩は独自の調査方法を用いて人口を把握していました。金沢藩、仙台藩、熊本藩、萩藩、佐賀藩、岡山藩、若松藩、高知藩、久保田藩、盛岡藩、米沢藩、宇和島藩、弘前藩、津和野藩など、多くの藩で詳細な人口調査が行われており、それらの結果から様々な分析が可能です。

江戸時代の生活史に関わる人口統計：出生率、平均寿命、乳児死亡率

江戸時代の出生率、平均寿命、乳児死亡率は、宗門改帳などの資料から推計されます。しかし、記録の不完全さや調査方法の限界から、正確な数値を得るのは困難です。それでも、これらの推計値から江戸時代の生活水準や社会状況について考察することができます。

まとめ

江戸時代の人口に関する研究は、歴史人口学の重要なテーマです。様々な資料から得られた情報や最新の研究成果を総合的に検討することで、より正確な江戸時代の人口像が明らかになりつつあります。しかしながら、資料の欠落や調査方法の限界、解釈の違いなど、依然として課題が残されています。今後の研究によって、より詳細な江戸時代の人口動態が解明されることが期待されます。

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